北方謙三「たとえ朝が来ても」(約束の街②)
北方謙三「たとえ朝が来ても」は、先に本ブログでも紹介した「ブラディ・ドール」シリーズから数年を経て、やはり日本のある街を舞台に、何人もの男たちが主人公(語り手)となって、それぞれの闘いを繰り広げる連作長編「約束の街」シリーズの第2弾だ。

今回の主人公(語り手)は、この街にかつての仲間を探しにやってきた謎の男波崎了。
文庫版カバーにはこうある。「かつてのパートナー、山崎進一を追いつめるために、私はこの街へやって来た。裏切りに楔を打ち込む。そう心に決めて、山崎の居場所を探った。その直後に私を阻む不穏な動き。山崎の背後にいる者は誰か。あいつの裏切りは何を意味しているのか。自分が火種になるしか、真相を暴く術はなかった。揉め事を起こすにつれて、明らかになる街の権力抗争。傷ついた男たちの癒えぬ哀しみ。そして、黙した女に秘められた愛。……〈以下略〉……」
波崎が探し出そうとしている山崎は、若月の経営するムーン・トラベルで働く山崎有子の離婚した元夫であり、山崎有子と暮らす息子・広二の父親だった。山崎有子に居所を聞き出そうとする波崎に対し、若月や野中ははじめ、山崎有子をかばおうとする。
何度かの妨害にもかまわず、山崎を探そうとする波崎の前に、姫島からやってきた水村までもが立ちはだかる。どうやら姫島もこの事件に1枚かんでいるようだ。
しかし、波崎もやられているだけの男ではない。最初に自分を袋叩きにした数名のひとり、室井を見つけて惨いほどお礼をする。そして室井からも水村の名前を聞き出す。
バー「てまり」。須田が花屋ととも経営するこの店は、曜日によってジャズ、カンツォーネ、ファドと音楽を変えて流す。女とともに店にやってきた若月。波崎と若月はここで話し合い、山崎有子や姫島のことを若月から聞く。若月を波崎が誘い、二軒目に入ると、そこではホテル・カルタヘーナの支配人・忍と会う。
忍からも姫島のことを聞いた波崎は、そこへ行く決意をする。若月の会社のランナバウトを野中の運転でチャーターした波崎は、マリーナに戻る直前に「海に死体が浮いている」と野中をだまして海に振り落とし、そのまま一人で姫島に向かった。
いつものように二頭のドーベルマンを連れ、岩壁で波崎を待ち受ける水村。そして二人は対峙する。水村に何度倒されても立ち上げる波崎。いつも間にか姫島の久納老人が波崎の側に来ていた。「命の無駄遣いはするな、波崎」と声をかける老人。「おまえは、山崎に会いたいんだな?」と重ねて問われる。「それが、できない。山崎から事情は聞いている。これを、渡しておこう」と金を渡される。
姫島の老人の指示によって、街までクルーザーで波崎を送る途中から、ボートで波崎を陸まで運ぶ水村。海上で短い時間、言葉を交わす二人。少しだけ通じ合うことがあったようだ。
その夜、傷だらけの身体でまた飲みに出て、「てまり」で若月と会う波崎。今夜は作家の群秋生からも誘われる。「ここがどんな街か、俺たちより先生が話してやるほうがいいような気がします」と若月。それから二人は群の家に戻り、ダーツの勝負をして話し始める。
この街のほとんどに影響力を持つ久納一族の兄弟の確執から、しばしば起こるトラブル。山崎のそういうトラブルのなかにいる、と群は波崎に示唆する。
徐々に山崎に迫る糸口をつかんでいく波崎。それに関わってくる若月や水村。波崎への脅しや暴力はしだいに激しくなってくる。街ではついに銃撃戦が起き、4人が死んで4人の重症者が出た。高級リゾートの殺伐とした出来事に、忍までもが乗り出してくる。
この先は、本編を読むとすぐに感じるが、速いテンポで、ぐいぐい惹き込まれていく展開になっている。カギを握るのは、バー「てまり」と「エミリー」という花屋を経営する須田だった。
山崎有子の息子・広二までも巻き込んで、激しい攻防が続く。そのなかで山崎は、息子・広二と、父親と息子としての絆を再び強くする。
エンディングでは、誰もが、父と息子、男同士、仲間同士の信頼と意地で、それぞれのこだわりを押し通し、闘い通そうとする。
本作「たとえ朝が来ても」は、前作にあたるシリーズ第1弾「遠く空は晴れても」に続き、この「約束の街」シリーズの登場人物と街の背景や人間関係が見えてきて、もっと深くシリーズを楽しめるきっかけとなりそうな作品。
波崎、須田、忍、群、そして姫島で久納老人を守る水村といった、そぞれの人物の性格や話し方もかなり見えてきた。ここから先が楽しみになった一作。
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