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January 31, 2008

北方謙三「たとえ朝が来ても」(約束の街②)

北方謙三「たとえ朝が来ても」は、先に本ブログでも紹介した「ブラディ・ドール」シリーズから数年を経て、やはり日本のある街を舞台に、何人もの男たちが主人公(語り手)となって、それぞれの闘いを繰り広げる連作長編「約束の街」シリーズの第2弾だ。
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今回の主人公(語り手)は、この街にかつての仲間を探しにやってきた謎の男波崎了。

文庫版カバーにはこうある。「かつてのパートナー、山崎進一を追いつめるために、私はこの街へやって来た。裏切りに楔を打ち込む。そう心に決めて、山崎の居場所を探った。その直後に私を阻む不穏な動き。山崎の背後にいる者は誰か。あいつの裏切りは何を意味しているのか。自分が火種になるしか、真相を暴く術はなかった。揉め事を起こすにつれて、明らかになる街の権力抗争。傷ついた男たちの癒えぬ哀しみ。そして、黙した女に秘められた愛。……〈以下略〉……」

波崎が探し出そうとしている山崎は、若月の経営するムーン・トラベルで働く山崎有子の離婚した元夫であり、山崎有子と暮らす息子・広二の父親だった。山崎有子に居所を聞き出そうとする波崎に対し、若月や野中ははじめ、山崎有子をかばおうとする。

何度かの妨害にもかまわず、山崎を探そうとする波崎の前に、姫島からやってきた水村までもが立ちはだかる。どうやら姫島もこの事件に1枚かんでいるようだ。

しかし、波崎もやられているだけの男ではない。最初に自分を袋叩きにした数名のひとり、室井を見つけて惨いほどお礼をする。そして室井からも水村の名前を聞き出す。

バー「てまり」。須田が花屋ととも経営するこの店は、曜日によってジャズ、カンツォーネ、ファドと音楽を変えて流す。女とともに店にやってきた若月。波崎と若月はここで話し合い、山崎有子や姫島のことを若月から聞く。若月を波崎が誘い、二軒目に入ると、そこではホテル・カルタヘーナの支配人・忍と会う。

忍からも姫島のことを聞いた波崎は、そこへ行く決意をする。若月の会社のランナバウトを野中の運転でチャーターした波崎は、マリーナに戻る直前に「海に死体が浮いている」と野中をだまして海に振り落とし、そのまま一人で姫島に向かった。

いつものように二頭のドーベルマンを連れ、岩壁で波崎を待ち受ける水村。そして二人は対峙する。水村に何度倒されても立ち上げる波崎。いつも間にか姫島の久納老人が波崎の側に来ていた。「命の無駄遣いはするな、波崎」と声をかける老人。「おまえは、山崎に会いたいんだな?」と重ねて問われる。「それが、できない。山崎から事情は聞いている。これを、渡しておこう」と金を渡される。

姫島の老人の指示によって、街までクルーザーで波崎を送る途中から、ボートで波崎を陸まで運ぶ水村。海上で短い時間、言葉を交わす二人。少しだけ通じ合うことがあったようだ。

その夜、傷だらけの身体でまた飲みに出て、「てまり」で若月と会う波崎。今夜は作家の群秋生からも誘われる。「ここがどんな街か、俺たちより先生が話してやるほうがいいような気がします」と若月。それから二人は群の家に戻り、ダーツの勝負をして話し始める。

この街のほとんどに影響力を持つ久納一族の兄弟の確執から、しばしば起こるトラブル。山崎のそういうトラブルのなかにいる、と群は波崎に示唆する。

徐々に山崎に迫る糸口をつかんでいく波崎。それに関わってくる若月や水村。波崎への脅しや暴力はしだいに激しくなってくる。街ではついに銃撃戦が起き、4人が死んで4人の重症者が出た。高級リゾートの殺伐とした出来事に、忍までもが乗り出してくる。

この先は、本編を読むとすぐに感じるが、速いテンポで、ぐいぐい惹き込まれていく展開になっている。カギを握るのは、バー「てまり」と「エミリー」という花屋を経営する須田だった。

山崎有子の息子・広二までも巻き込んで、激しい攻防が続く。そのなかで山崎は、息子・広二と、父親と息子としての絆を再び強くする。

エンディングでは、誰もが、父と息子、男同士、仲間同士の信頼と意地で、それぞれのこだわりを押し通し、闘い通そうとする。

本作「たとえ朝が来ても」は、前作にあたるシリーズ第1弾「遠く空は晴れても」に続き、この「約束の街」シリーズの登場人物と街の背景や人間関係が見えてきて、もっと深くシリーズを楽しめるきっかけとなりそうな作品。

波崎、須田、忍、群、そして姫島で久納老人を守る水村といった、そぞれの人物の性格や話し方もかなり見えてきた。ここから先が楽しみになった一作。


【以下、関連記事】
北方謙三「遠く空は晴れても」(約束の街①)
北方謙三「ふたたびの、荒野」(ブラディ・ドール⑩)
北方謙三「聖域」(ブラディ・ドール⑨)
北方謙三「鳥影」(ブラディ・ドール⑧)
北方謙三「残照」(ブラディ・ドール⑦)
北方謙三「黙約」(ブラディ・ドール⑥)
北方謙三「黒銹」(ブラディ・ドール⑤)
北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)

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January 29, 2008

北方謙三「風葬」(老犬シリーズⅡ)

北方謙三「風葬」は、老犬トレーの口笛や鼻歌が癖で「老いぼれ犬」という異名をとる刑事・高樹良文が主役(語り手)となる物語。先に本ブログで紹介した「挑戦」シリーズをはじめ、北方作品の多くに登場する名物刑事・高樹の生い立ちが描かれた前作「傷痕」に続く「老犬シリーズ」の第2作だ。
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文庫版カバーにはこうある。「刑事となった良文は、抜群の検挙率をあげた。ある夜、連続殺人事件の捜査で、少年時代の親友・幸太に会い、彼が事件に関係していることを知った。いつものように走り、獲物を追う。その結果手に入れた真実の味は? 昭和35年、高度成長期の東京。27歳の『老いぼれ犬』高樹良文は、悲しみで一杯のの獣だった」と。

前作「傷痕」で、戦後間もなくの施設からともに逃げ、子どもながら自分たちの力で生き抜こうとしてきた高樹良文と田代幸太。「二人合わせて26歳」と強がり、大人たちによる理不尽なかすり搾取や縛りから逃れ、仲間の子どもだけで共同生活をして、しぶとく稼ぎ、生き抜こうとしてきた二人。

やがて戦死したと思われていた良文(高樹)の父親が復員したことで、仲間と分かれて家族での生活に戻った良文。良文はその後、刑事となり、独特の捜査と癖のある行動で、高い検挙率を上げる刑事となる。

事件をめぐって、再び幸太(田代幸太)と出会う良文(高樹)。「親友」という言葉で語れるほど、二人は良い思い出だけで語れる間柄ではない。「傷痕」のなかで抱え込んでしまった傷。忘れることのできない思い。幼かった仲間・和也の死の復讐のために、ある夜「けもの」となった良文。そして二人で逃げる良文と幸太。

その思いは、仲間のなかでも、幸太と良文だけが知っているものだった。そのときの「傷」は、その頃一緒に過ごした仲間で唯一の女であった里子も抱いている。しかし、「けもの」となった夜のことは里子も知らないことだろう。

「孔雀」という看板に惹かれて、店に入る高樹。口笛とともに男が店に入ってきた。「老犬トレー」のメロディー。高樹も吹いてみた口笛に、また口笛の音が重なった。

「十三年、いや十四年か」と先に口を開く幸太。「二人合わせて二十六」と良文。「そうだ、俺たちは二人で大人だった」と幸太は言う。

幸太の吸うゴロワーズ。いがらっぽい、でもどこか懐かしい煙の匂いがする。二人が別れた後、大人になった幸太は里子と結婚した。二人の子どもには和也と名づけたという。

やがて事件の道筋は見えてきた。やはりその鍵を握るのは幸太の動きのようだ。高樹と別れるつもりで、自分のライターを高樹に受け取らせる幸太。いつもよりスローな「老犬トレー」の口笛。この口笛は、子どもだけで生きていたあの頃、仲間うちの合図に使うことに幸太が決めたメロディーだった。

そして事件は佳境に向かう。幸太の決めたことを抑えることはせず、しかし最後は自分の手で幸太を逮捕しようと決意する高樹。かつてともに少年時代を生きた二人の「けもの」のぶつかり合いは、暴力団も警察も手の届かないところで迫ってくる。

そうして単独で田代幸太を追う高樹良文の行く手をさえぎろうとする幸太の部下や仲間。彼らもかた、最後まで「男であろうとする」幸太に惚れ、それをかばおうとする馬鹿な男たちだ。

エンディングが迫り、「老犬トレー」の口笛に吸い寄せられて幸太を追い詰めた高樹に幸太が言う。「ちゃんとした格好をしてろ。そう言ったろう。いい服を着て、糊の利いたシャツに皺のないネクタイ締めて。そうやって、おまえは心のなかのけものを閉じ込めなくっちゃな。でなけりゃ、刑事を続けられねえぞ」。

そして幸太と高樹の最後の決着。これは多くの北方作品のなかでも重く、せつなく余韻が残る。

前作「傷痕」が、「老いぼれ犬」高樹刑事のルーツを探ることのできる物語だとすれば、本作「風葬」は、高樹が古い傷を抱えて、それでも、生き急ぐ「けもの」たちを眺めながら、せつなく生き抜く「老いぼれ犬」となっていく、その理由がここにある気がする作品。

前作「傷痕」とともに、「老いぼれ犬」高樹がからむ北方作品を何倍にも楽しむための必読作品だ!


【以下、関連作品】
北方謙三「傷痕」(老犬シリーズ。挑戦シリーズ関連作品)
北方謙三「牙」(挑戦シリーズ関連作品)
北方謙三「いつか友よ」(挑戦⑤)
北方謙三「檻」(挑戦シリーズ関連作品)
北方謙三「風群の荒野」(挑戦④)
北方謙三「風の聖衣」(挑戦③)
北方謙三「冬の狼」(挑戦②)
北方謙三「危険な夏」(挑戦①)


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January 27, 2008

北方謙三「遠く空は晴れても」(約束の街①)

北方謙三「遠く空は晴れても」は、これまで紹介してきた「ブラディ・ドール」シリーズに続いて、ある街を舞台にした連作で、その都度主人公が代わり、物語が展開していくハードボイルド作品。その第1弾である本作「遠く空は晴れても」の主人公(語り手)は、その街に住む33歳の海の男、若月真一郎。
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文庫版カバーにはこう記されている。「夏の海が吼えていた。灼けつくような陽をあびて、私は教会の葬礼に参列した。不意に、渇いた視線が突き刺さる。危険な匂いが漂う男、川辺との出会いだった。やがて、川辺は芳林会の内部抗争を惹き起こす。だが、奴の標的な別の何かだ。トラブルしか縁がないために〈ソルティ〉と呼ばれる私は、その街の利権抗争に深く踏み込んでいく――酒瓶に懺悔する男の哀しみ。街の底に流れる女の優しさ。虚飾の光で彩られたリゾートタウンで、ハードボイルドの系譜を塗りかえる孤峰の大長編小説の幕があく!」。

ホテル・カルタヘーナと神前亭という二つの高級ホテル・旅館を中心に、高級リゾートとして急速に発展してきたこの街に、いまなお大きな影響力を持つ久納一族。その一族の兄弟の確執にはじまり、土地や利権、薬のために暴力団を巻き込んで街に起きる抗争の渦。それを姫島から見守る一族の長老・久納老人。

久納一族の血をひく、ホテル・カルタヘーナの総支配人・忍のもとで、ムーントラベルというマリン・サービスの会社を営む若月真一郎。肩書きは社長であるが、人生の塩辛いところばかりを舐めてしまうという“ソルティ”のニックネームさながらに、街のトラブルに必ず関わってしまう。

真夏の葬列に紛れ込んできた男・川辺と、その旧くからの友人であったという須田。須田はこの街で「エミリー」という花屋と酒場を経営する。

川辺と須田の行動に始まる抗争の渦に、若月もやがて巻き込まれていく。姫島の久納老人も関わっているらしく、老人のもとで姫島の番人を務める水村も争いに関わってくる。そうした動きを眺めている作家・群秋生。

さらに、ケイナのマスター杉下、そこで働く牧子、須田の経営するバー「てまり」のバーテン宇津木、若月のもとで働く野中など、この街の多くの人間を巻き込んで、暴力団との抗争はしだいに激しさを増してくる。

最後は、姫島で決着をつけようとする川辺と大橋。その決着を見守る若月と須田。島では水村も姿を現す。姫島の久納老人もその結末を見ていた。「おい、若いの」と若月に問いかける久納老人。「これに何か意味があると思うか?」

問われた若月は「川辺さんには、多分」と答える。「そうか、川辺のほうには、なにか意味があったか」と久納老人。

己のあり方にこだわり続け、「勝手に生きて、勝ってに死んでいく」男たち。「いるんですね、あんな男」と若月は呟く。「いたんだな、という気分です。あんな男が、まだいたんだってね」という若月に、「塩を舐めたような顔だぜ、ソルティ」と須田が声をかける。

この「遠く空は晴れても」に続いて、「たとえ朝が来ても」(約束の街②)、「冬に光は満ちれど」(約束の街③)、「死がやさしく笑っても」(約束の街④)、「いつか海に消え行く」(約束の街⑤)、「されど君は微笑む」(約束の街⑥)、「ただ風が冷たい日」(約束の街⑦)と続いていくシリーズの中心となる人物、若月真一郎が姿を現した初回作。

「ブラディ・ドール」シリーズに続いて、毎回の登場人物が主人公となり語り手となって、この街の人物たちを巻き込んで物語を展開していく、北方ハードボイルドの妙を満喫できるシリーズだ。その冒頭の物語だけに、読み逃すことはできない。

また、シリーズ⑥の「されど君は微笑む」まで読み進めていくと、何とここで、あの「ブラディ・ドール」の面々が、この「約束の街」にやってくる。このとき川中は、忍や群秋生と近い世代、坂井は、ちょうど若月と同年代になっている。

北方先生ってば、こんな話を書かれたら、「ブラディ・ドール」ファンは読まないわけにいかないではないですか! おまけにシリーズ⑦「ただ風が冷たい日」でも、川中、坂井、高岸が登場。この文庫版は最近新刊で出たばかり。物語からは数年を経てはいるが、あの「ブラディ・ドール」の面々の行動を、いまもリアルタイムのような感覚で読めるなんて……。

というわけで、「約束の街」も一気に全作を読み通すことになってしまい、通読後はほっとひと息ついた感じで、それぞれの作品を振り返っては楽しんでいる。


【以下、関連記事】
北方謙三「ふたたびの、荒野」(ブラディ・ドール⑩)
北方謙三「聖域」(ブラディ・ドール⑨)
北方謙三「鳥影」(ブラディ・ドール⑧)
北方謙三「残照」(ブラディ・ドール⑦)
北方謙三「黙約」(ブラディ・ドール⑥)
北方謙三「黒銹」(ブラディ・ドール⑤)
北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)

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January 24, 2008

北方謙三「傷痕」(老犬シリーズⅠ)

北方謙三「傷痕」は、北方ハードボイルドの多くに名脇役をして登場する刑事・高樹良文が、主人公(語り手)である物語。なおかつ高樹が、なぜ「老犬トレー」の鼻歌が癖になったのか、そして「けものの匂い」を持つ男をかぎわけられるうようになっていったのか、そのきっかけがわかる、壮絶な少年時代の物語だ。
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文庫版カバーにはこうある。「孔雀城――無頼の少年たちは、自分たちの寝ぐらをそう呼んだ。戦争直後の東京、焼け崩れた工場の跡地である。隠匿物資を盗み出し、闇市で売りさばくことを覚えた良文とその仲間にとって、最大の敵は浮浪児狩りと暴力団だった。幼い良文は野獣のように生き抜いてゆく」と。

戦後の焼け野原の東京で、浮浪児が生き抜くために、幼いながらもパートナーとして二人で力を合わせて生きている高樹(良文)と田代幸太。その日の糧を得るために、子どもなりに頭を使い、度胸も武器としながらしぶとく日々を食いつなぐ二人。

しかし、幼い彼らを働かせて、その上前をはねる大人たちや、その上で彼らを束ねる暴力団の力は強く。良文と幸太は、何とか自分たちで稼げないかと考え、そして行動する。一緒に施設を抜け出して自分たちで生きてきた二人には、いつまでも暴力団の傘下にいることは枷でしかないと良文は考える。

機転と度胸で大人たちが貯め込んだ物資の一部を奪い取り、徐々に自分たちの商売で稼ぎを増やしていく良文と幸太。やがて二人は、同じ年頃の少年たちと仲間どうしで暮らし始める。幼い和也も、幸太の弟分のようにして仲間に加わる。

孔雀城、大鷲城、烏城、……。城と名づけた寝ぐらを何箇所か築いた少年たち。何か危険なことがあったときの合言葉として、「老犬トレー」の口笛を吹くことを幸太が決める。幸太の姉が米兵から教わったという「老犬トレー」。それを練習して覚える少年たち。良文もしだいにその曲をいい曲だと思う。

そして、市場で店の品物を盗もうとした里子との出会い。里子は、男の子のように頭を坊主にして生きていた。

ある日、暴力団同士の縄張り争いのなかで、二人が親しんでいたやくざ、岡本が木刀で大立ち回りを演じるが、刺殺されてしまう。間際に、岡本から海軍士官が使っていた短剣を預かる。

その後も、里子を仲間に加え、子どもだけの寝ぐらで暮らし、自分たちの力で商売をする良文と幸太の生活は続いた。しかし、因縁の暴力団との縁は切れたわけではなかった。

その後のドラスティックな展開は、ぜひ本編を読んでほしい。後年の高樹刑事が、なぜ自分のなかの「けものの血」を感じ続け、それを抑えるために背広と刑事という職業で自分を包み込んで生きているかがわかる気がする。その意味で、本作「傷痕」は、北方ハードボイルドのファンなら欠かすわけにはいかない作品だ。

仲間のなかで幼い弟としてかばわれながらも、仲間として男として認められようと、自ら身体を張って危険な市場に侵入する和也。そして敵にとらわれた和也は、やがて幼い命を落とす。

幸太や里子の涙。仲間たちの涙。幸太とともに「二人合わせて26歳」と強がって生きてきた、まだ少年時代の高樹良文の心に、抑えきれない火が燃え上がる。和也を殺した暴力団の後藤への復讐。

そして最後には、ずっと一緒だった幸太とも離れ、里子やほかの仲間たちとも別れることになる良文。「あばよ、兄弟」といって別れる良文と幸太。

数年の後、良文(高樹良文)は刑事となり、この「老犬シリーズ」の次作「風葬」のなかで、幸太(田代幸太)と再開する。

この出会いと物語も、その後、北方作品のなかで数多く姿を見せる高樹刑事の生き方や行動に大きく影を落とす。

本作「傷痕」から「風葬」、そしてシリーズ最終作の「望郷」まで、読み始めたら一気に惹き込まれる。幸い新刊書店で続けて見つけることができ、ひと息で読んでしまった。

先に紹介した「挑戦」シリーズの水野竜一をはじめ、「檻」の村沢、「牙」の石本一幸など、何人もの「けものの匂い」をさせる男たちの生き方に関わっていく、「老いぼれ犬」高樹の原点はこの物語のなかにある。


【以下、関連作品】
北方謙三「牙」(挑戦シリーズ関連作品)
北方謙三「いつか友よ」(挑戦⑤)
北方謙三「檻」(挑戦シリーズ関連作品)
北方謙三「風群の荒野」(挑戦④)
北方謙三「風の聖衣」(挑戦③)
北方謙三「冬の狼」(挑戦②)
北方謙三「危険な夏」(挑戦①)


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January 23, 2008

北方謙三「ふたたびの、荒野」(ブラディ・ドール⑩)

北方謙三「ブラディ・ドール」シリーズの⑩にあたるのが、この「ふたたびの、荒野」だ。北方ハードボイルドのなかでも不朽の名作、連作といわれる本シリーズの第1弾が「さらば、荒野」であったことを思えば、この「ふたたびの、荒野」というタイトルじたいが何かを連想させる。
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主人公(語り手)は、「さらば、荒野」から久々に、シリーズ前編を通じての中心人物、川中良一に戻る。

というより、本作の文庫版の巻末にある斉藤純氏の解説にあるように、シリーズ②から⑨まで、すべて川中以外の登場人物による一人称で語られている形式によって、「一人称だから、それぞれの主観で川中という男が語られている。川中を描きつつ、川中という男を見ているその語り手の人間も浮き彫りにする。ブラディ・ドールはそういう二重に凝った書き方がされている」ということだったのだろう。それが本作は、再び川中の語りによって描かれる。

文庫版カバーにはこうある。「冬が海からやってくる。毎年それを眺めているのが好きだった。鈍く輝きはじめた海を見て、私は逝ってしまった男たちを思い出す。ケンタッキー・バーボンで喉を灼く。だが、心のひりつきまでは消しはしない。いま私にできることは、この闘いに終止符を打つことだ。……」と。

冒頭の「冬が海からやってくる」は、ブラディ・ドールのファンにはおなじみのフレーズだろう。「さらば、荒野」の文庫版カバーを読み返してみると、「冬は海からやってくる。毎年、静かにそれを見ていたかった。だが、友よ。人生を降りた者にも闘わなければならない時がある、……」となっている。

物語中に、その「冬が海からやってくる」という表現があるのかどうかは思い出せないが、その後の表現が違う。「さらば、荒野」では、これから始まる闘いを暗示しているが、「ふたたびの、荒野」では、「逝ってしまった男たちを思い出し」、そして「私にできることは、この闘いに終止符を打つことだ」と、シリーズを通しての長い闘いが、やがてエンディングに向かうことを暗示している。

その紹介文のとおり、この「ふたたびの、荒野」は、現時点では、連作「ブラディ・ドール」シリーズの最終話となっており、いちおうの結末を迎えている。

実際には、このあとの連作「約束の街」シリーズの⑥「されど君は微笑む」と⑦「ただ風が冷たい日」に、川中や坂井、高岸らが登場することから、物語としては続いているのだが、「ブラディ・ドール」としての決着はついているということだろう。

今回はストーリーには、あまり触れないようにしたい。ただ、大きな敵との闘いを迎えるなかで、川中の仲間たちはすべて動き、川中の闘いのなかで躍動する。

その闘いのなかで、また大切な友を二人、川中や坂井は失う。

しかし、最後に決着をつけたのは、この街で生まれ、いったんは街を出て、再びこの街に戻ってきた川中と宇野(キドニー)だった。

いちおうの決着がついた後に川名と宇野はこんな科白を交わす。
川中「ここで死ぬか、キドニー?」
宇野「死んでいたな、俺ひとりじゃ」
川中「死んだのは………さ」
宇野「らしいな」

宇野「勝ったのか、川中?」
川中「こんなので、勝ったというのか?」
宇野「まったくだ」
川中「俺たちが、生き続けなきゃならんというだけの話しだな」

このN市に長く渦巻いてきた抗争は終わったかもしれない。しかし、川中と宇野が、それぞれに自分で抱え込んでいる闘いは、これで終わったわけではない。

「ブラディ・ドール」はこれからもこの街で、男たちのなかで行き続けるし、すでにいなくなってしまった男たちも、残された者の胸のなかで変わらずに生き続ける。

シリーズ10巻を読み終わって、おそらく今後も、思い出すたびに、川中やキドニー、坂井らの今後の生き方を「いつかまた読みたい」と強く思わせる作品だったと思う。


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January 22, 2008

北方謙三「聖域」(ブラディ・ドール⑨)

北方謙三「ブラディ・ドール」シリーズの⑨にあたるのが、この「聖域」だ。主人公(語り手)は、姿を消した教え子を探してこの街にやってきた高校教師、西尾正人。
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そういうと何か学園ドラマみたいな印象も持ってしまうために、本シリーズのなかでは、ちょっと異色の切り口かとも思ったが、読み進めていくうちに、カローラ・レビンをフルチューンして街道を飛ばす「走り屋」でもある、主人公・西尾のキャラクターがはっきりしてきて、しだいにストーリーに引き込まれる。

ラグビーの有望選手だった高岸は、同じラグビー部の仲間が退学になる事件を起こしたことがきっかけだったのか、突然、退学していなくなる。それを探しにやってきた西尾。最初はさほど強い動機があるのかどうかも、なかなかわからない。

文庫版カバーには、こうある。「高校教師の西尾は、突然退学した生徒を探しにその街にやって来た。『臆病なんですよ、俺は。自分でも情けなくなる……』西尾はそう呟く。だが、それでも自分を信じたいと思う。沈黙しつづけるばかりの人生に幕を下ろしたいと、西尾は願った」と。

さらに続く。「西尾は教え子が、暴力団に川中を殺すための鉄砲玉として雇われていることを知る。一体なんのために……。しかし、黙したまま堕ちていこうとした少年の決意を知ったとき、西尾の魂に火が点いた――」。

その教え子、高岸を探そうとするうちに、ポルシェに乗る川中や、その仲間たちと西尾は出会う。同時に、もう一人の教え子、吉山の所属する暴力団のしわざか、度重なる暴力に打ち倒される。

傷ついた西尾を助け、桜内の診療所に連れていく下村。事情を聞かれ、西尾は教え子を探していることを川中たちも知る。

坂井は川中を負かしたという西尾のカローラ・レビンに興味を持ち、自分に運転させてみないかと西尾に持ちかける。カローラ・レビンを運転した坂井は、その持ち主の西尾に好感を抱く。

そして再び、西尾は暴力団の根城に乗り込み、拉致されて袋叩きにされる。また下村と坂井に助けられる西尾。

やがて高岸と会うことができ、事情を尋ねる西尾。しかし高岸は、深いところまでは語ろうとしない。

実は高岸は川中を殺す鉄砲玉の役割を押しつけられていた。それを断りもせず、ある日、高岸は川中に襲い掛かる。命がけの眼をしていると感じた川中は、高岸を正面から相手に殴り合いを始める。

その殴り合いを止めようともせずに見守る坂井に、西尾は「止めてくれ」と頼むが、坂井はまったく取り合わない。「どちらかが死ぬぞ」という西尾に、「男の殴り合いってのは、そんなものさ」と答える坂井。

最後には、高岸に川中を襲わせた暴力団・美竜会を相手に、自らが餌となって走り、敵を引きつける役割を担おうとする西尾と、そこに同乗する高岸。

そこから西尾の「走り屋」の魂に火が点く。俺はあいつらに殴られ続けたが、殴り合いだけが男の闘いではないと叫ぶかのように走りぬく西尾。

西尾と高岸が走りながら会話を交わす、このクライマックスと、下村が西尾を見守るエンディングは、ぜひ本編をじっくり読んでほしい。

「ブラディ・ドール」シリーズのなかでも、下村と坂井の関係や人間味が現われ、西尾と高岸という若い魂が触れ合う、それと下村・坂井のコンビの気持ちが交錯する本作は、読み応えがある作品だ。

【以下、関連記事】
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北方謙三「黙約」(ブラディ・ドール⑥)
北方謙三「黒銹」(ブラディ・ドール⑤)
北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
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北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)


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January 20, 2008

北方謙三「鳥影」(ブラディ・ドール⑧)

北方謙三「ブラディ・ドール」シリーズ⑧にあたるのが本作「鳥影(ちょうえい)」である。主人公は、スーパーの経営者、立野良明。ある日、立野は、別れた妻・和子から呼び出される。
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文庫カバーには、「男は、三年前に別れた妻を救うために、その街にやってきた。『なにからはじめればいいのか、やっとわかったよ。殴られた。死ぬほど殴られた。殴られたってことから、俺ははじめるよ』。妻の死。息子との再会。男はN市で起きた土地抗争に首を突っ込んでいき、喪失してしまったなにかを取り戻そうとする。一方、謎の政治家大河内が、ついにその抗争に顔を出し始めた。大河内の陰謀に執拗に食い下がる川中、そしてキドニー。」とある。

なぜ和子は自分を頼ったのか。和子と息子・太一はどういうことに巻き込まれているのか。その理由を探し歩く立野は、見知らぬ男たちから次々と暴力に見舞われる。

船上に拉致され、痛めつけられる立野。力を振り絞って海へ飛び込んで逃げた立野を救ったのは、ブラディ・ドールのバーテンを勤める坂井直司だった。傷ついた立野を、坂井は桜内の診療所に連れていく。

その後も探索を続ける立野は、ある夜、5人の男にからまれる。とても相手にできる数ではない、と思いながらも、闘いを決意する立野。

そのとき助けに現われたのは、ブラディ・ドールのフロアマネージャーの下村敬だった。「ずっと、俺をつけてたのかね?」とたずねる立野に、下村は答える。「死ぬ気だから守れ、と社長に言われています」と。

闘いのなかで拉致され、殺される和子。かつて山で友達を死なせてしまったことを悔い続けてきた立野は、また何かを胸に刻みつける。

さらには息子・太一と、その友達になっていた、ホテル・キーラーゴの経営者・秋山の娘、安見までもが敵にさらわれる。ついに激しく動き出す川中と仲間たち。

やがて安見は見つけて救い出すが、太一は別の場所に連れていかれた後だった。川中の仲間たちの捜索によって、太一の居る場所にあたりをつける立野。立野を迎えに行き、太一を救いに連れ出す下村。

車も入れない険しい山道を越えて、一人で太一を救い出しに向かう立野。それを何も言わずに送り出す下村。

山を越えた村落で、敵の隙をついて太一を救い出す立野、しかし太一は逃げられないように両足の骨を折られていた。太一を背負い、山道を7~8時間も歩き続ける立野。

そして、海が見える崖の上まで逃げてきた立野と太一は、最後にその崖を降りることを決意する。息子を背負い、垂直に近く切り立った崖を降りる立野。父親を信じて、その背中に自分を預ける太一。

逃げてきた二人を、途中で待っていた下村とキドニーの車が拾い上げる。

作者である北方氏が、「父と息子の物語が書きたかった」と別のところで語っているように、大切なものを失くし続けてきた男が、最後に息子と気持ちを通じ合う、喪失と再生の軌跡が、本書「鳥影」の醍醐味といってよい。

シリーズを通じて川中たちの最大の敵となる政治家・大河内も姿を見せる。

シリーズのラストに向けて急速に展開するN市の土地抗争。これからどうなるのか、その兆しの見える、見逃せない一作が、この「鳥影」だろう。


【以下、関連記事】
北方謙三「残照」(ブラディ・ドール⑦)
北方謙三「黙約」(ブラディ・ドール⑥)
北方謙三「黒銹」(ブラディ・ドール⑤)
北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)


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北方謙三「残照」(ブラディ・ドール⑦)

北方謙三「ブラディ・ドール」シリーズの⑦にあたるのが、本作「残照」だ。主人公(語り手)は、自分の前から突然姿を消した女を追って、この街にやってきた28歳の青年、下村敬。
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理由も言わず下村の前から消えた女・まりこは、癌に冒された身体を張って、かつて蒲生が守っていたヨットハーバーの跡地に病院を建てようとしていた医師、沖田を支えようとしていた。

文庫版カバーの紹介文にはこうある。「『なにも言わずに消える。それが俺は納得できなかった』自分の前から、突然消えた女を追いかけて、青年はこの街にやってきた。癌に冒された男との出会い。滅び行く男に魅いられた女との再会。青年は、それから生きていくためのけじめを求めた」と。

このシリーズ②の「碑銘」で登場し、その後、川中の経営する酒場「ブラディ・ドール」でバーテンを勤める坂井。年齢が近いこともあってか、互いに何かを感じ取る坂井と下村。

川中とその仲間と知り合いになっていくに連れて、それぞれのこだわりを知る下村。まりこが支えようとする沖田と、それを見守っている川中や弁護士・宇野(キドニー)らの思いも少しずつ理解する。

死に確実に近づいていく日々を、病院建設にかける沖田。その沖田のこだわりを見据えるなかで、自分も自分なりの行動を通して、納得しようとする下村。無口で感情をあまり表に出さないが、それでも自分を押し通そうとする下村の行動を見守る川中と、宇野、桜内、大崎といった仲間たち。

再び姿を消したまりこを救うために、ひとり岬のビーチハウスに向かった下村の前に、姿を現す殺し屋・叶。下村が駆けつける前から、叶は敵の様子をうかがっていた。

そしてビーチハウスに駆け込み、敵の男たちからまりこを救い出す下村と叶。救出したまりこを下村は医師・桜内のもとに送り届ける。

沖田の闘いを支えようとするまりこの思いも理解し、自分ができることとして、身体を投げ出して敵を引き付けようとする下村。抗争のなかで、自ら危険に身をさらそうとする下村を気にする坂井や川中。

やがて下村は敵にとらえられ、徹底的に痛めつけられる。右腕を折られ、左手を角材でつぶされた下村は、それでも譲ろうとはしない。

ようやく下村を救うために倉庫に飛び込んできた川中、坂井、叶ら。死の寸前で、自分を抱きかえた坂井を、下村は天使が身体を持ち上げたと思う。かつぎこまれた桜内の病院で、川中がフォークリフトで倉庫に突っ込んで下村を助けようとしたことを聞かされる。

天才外科医・桜内の処置によって、右腕と鼻の骨は救われる。しかし、桜内の腕をもってしても、つぶされた左腕はだめだった。

そこから先のストーリーは、本編をぜひ読んでほしい。「ブラディ・ドール」シリーズのなかでも、壮絶といってよい展開が続く。

そして闘いを終え、今後はブラディ・ドールのフロアマネージャーになることを、川中に勧められる下村。この頃には、下村はこの街に集う男たちのことが好きになっている。

本シリーズのなかでは、後期の登場人物といえる下村。坂井を惹きつけ、簡単に自分を投げ出してしまう下村の行動には、なぜか前作「黙約」で死んでいった藤木年男と共通するものを感じる。

そして、藤木を失い、一人ブラディ・ドールのカウンターを守ってきた坂井は、年齢の近い友人を得ることになる。この後の物語では、坂井、下村のペアが、軽快なフットワークと闘争力で、重要な役割を演じていく。しかし、この「残照」の物語のなかで、川中やキドニーらは、この街に集ってきた大切な仲間を、また一人失うことになる。

それだけに、左手を失くした青年、下村敬の登場と、この街に住み着いた経緯がわかる本作「残照」は、シリーズのなかでも大きな存在といえそうだ。


【以下、関連記事】
北方謙三「黙約」(ブラディ・ドール⑥)
北方謙三「黒銹」(ブラディ・ドール⑤)
北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)


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January 19, 2008

北方謙三「牙」(挑戦シリーズ関連作品)

北方謙三「挑戦」シリーズの「風の聖衣」、「風群の荒野」の関連作品となるのが、この「牙」。
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主人公は、祖父のもとで植木屋(庭師)の見習いをしている若者、石本一幸。風の強い日の夜に、木々の見回りに出た石本は、白いトレンチコートを着てうずくまっている女を見つける。

女をかばって、自分の部屋で一晩かくまう一幸。それを探しに来たらしい男たち。女が働いていると教えてくれた店を訪ねるが、そこに女はいない。あの夜のことは現実ではなかったのか?

しかし、女を探し歩いたことがきっかけで、一幸は怪しい男たちにからまれ、殴られる。高校ではラグビーをやっていて、体格の良さとパワーで有望な選手ともいわれてきた一幸だが、その場では殴り返すこともできなかった。

もめごとの後に、あの女から電話がかかる。由加利と名乗るその女は、どうやらあの風の日に、何か隠したものがあるようだ。呼び出されて、由加利に会いにいく一幸。

そこから一幸は、何人もの男がかかわる、争いの渦に巻き込まれていく。矢野と名のる男。在沢企画。どうやら由加利の本名は、牧田洋子というようだ。洋子の足取りを追って、妹の住む家を訪ねる一幸。神田のホテルでの殺人事件。

急速に謎を深める争いのなかで、今度は祖父、清太郎が襲われる。死に近づく清太郎は、一幸に、「男はな、一幸」、「牙をなくしちゃなんねえ。いざという時にゃ、牙をむけるのが男ってもんだ」と言い残す。大切な人を奪われ、自らの闘いの血に目覚めていく一幸。

祖父の命を奪った敵と、洋子を追う敵を探して、挑んでいく一幸の行動に、抗争の火は膨らんでいく。敵は追うほどに大きくなる。そこに「老いぼれ犬」高樹刑事もからんでくる。

祖父、清太郎の残した言葉を思い出し、自分のなかの「けものの血」を目覚めさせていく一幸に、「老いぼれ犬」高樹は、自分の知っている「けものの匂い」を持つ男たちを思い出す。

最後には、一連の争いの糸を引く大原を探し当て、一人だけで決着をつけに行こうとする一幸。そんな「けもの」をとめることをせずに見守る高樹。

大原の屋敷から、一幸を乗せて逃がしてやる高樹。しかし、最後に高樹は、一幸と自分だけの決着をつけようとする。

自分の追い求めた相手に、一人闘いを挑んだ若い「けもの」石本一幸を、高樹は倒すことはできない。逮捕することもしなかった。そして波止場から、一幸を海外に逃がそうとする高樹。

この「牙」が関連する「挑戦シリーズ」の②「冬の狼」では、やはり「けものの血」を抑えられずに、敵を死に至らしめた水野竜一を、高樹は海外に逃がす。

「老犬トレー」のメロディーを耳に刻んで、「老いぼれ犬」高樹に海外に逃がされた、「牙」の石本一幸と、「冬の狼」の水野竜一が、後に「挑戦」シリーズ③の「風の聖衣」で顔を会わすことになる。

その後、シリーズ④の「風群の荒野」では、この石本一幸が主人公となって、ペルーの山岳地帯で、再び「狼(ロボ)」こと水野竜一に挑む。

「挑戦」シリーズ③の「風の聖衣」で主人公となる元刑事・村沢とともに、この石本一幸と水野竜一を、北方氏は何かのインタビューで「老いぼれ犬の息子たち」と表現している。

だからこそ、「挑戦」シリーズや、高樹の過去を主軸にした「老犬」シリーズをさらに楽しむためにも、石本一幸が「けもの」に変貌していく、この「牙」は必読作品といえるのではないか。

【以下、関連作品】
北方謙三「いつか友よ」(挑戦⑤)
北方謙三「檻」(挑戦シリーズ関連作品)
北方謙三「風群の荒野」(挑戦④)
北方謙三「風の聖衣」(挑戦③)
北方謙三「冬の狼」(挑戦②)
北方謙三「危険な夏」(挑戦①)


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January 18, 2008

北方謙三「いつか友よ」(挑戦⑤)

北方謙三「挑戦」シリーズの第5弾、「いつか友よ」。ペルーでの闘いの場から立ち去り、カナダの山奥で暮らす水野竜一が再び主人公となる物語。2008年1月現在では、これが「挑戦」シリーズの最終巻となっている。
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文庫版カバーにはこうある。「『心の痛みを忘れない猛獣、そういうのを狼(ロボ)というのよ』水野竜一の耳に女がささやいた。ペルーの村を離れ、カナダの山奥に流れた彼はひとりの日本人少年に逢う。殺された父親の復讐のために強くなりたいという少年を、竜一は一人前のコマンドに仕立て上げる。だが、巨大な組織の前に、少年の力はあまりに非力だった。ついに『狼』は立ち上がる」と。

カナダの山岳地帯の森林の奥の山小屋で、一人ひっそりと暮らす水野竜一。この小屋へは、奥地で猟をしたいという人間しかやってくることはない。

しかし、その土地に現われた少年。それを追う男。少年から話を聞いてみると、父親を殺され、自分も追っ手に狙われているらしいことがわかる。少年はどうやら日本人だった。

闘うことに虚しささえ感じ、人里を離れて生きる竜一にとって、こうした闖入者は、わずらわしい存在でしかなかった。しかし、追っ手に追われ続け、それでも必死に生きようとする少年に、竜一は何かを感じる。

少しの間、ともに生活する間に、竜一のなかで少年に対する気持に変化が生じる。父親の敵を討ちたいと願う少年の気持ちを受け止め、戦闘に必要な技術と精神を叩き込む竜一。

やがて少年は、かなりの戦闘力を持つコマンドに成長する。一人、闘いに向かう少年、圭太郎。しかし敵は手ごわかった。「やるべきことはやった」と言い残し、死んでいく圭太郎。

少年の思いを胸に、竜一は森林を歩み出て山を降り、闘いに向かう。それでもカナダでの闘いで、決着はつかなかった。敵にかかわる日本人を追い、再び竜一は帰国する。

竜一を迎える吉川栄。「老いぼれ犬」高樹との再開。そして日本での標的である、政治屋の元締めと仲間との戦い。闘いを前に、高樹との会話で竜一はこう語る。

「俺に信じて貰っていい男がいた。俺に信じられる資格を持って、死んでいった男がね。その男は、自分の父親を信じた。信じて闘った。正義とか悪とか、むなしいものだ。ひとりの人間を信じられるかられないか。生きることのほんとうの意味が、そこにあるのだとそいつは教えてくれましたよ」。

標的、沖田のボディガードは剣道の達人。幼かった友のために、勝負のわからない闘いに挑む竜一。かつて抱いていた夢であった南米に渡り、数々の闘いを経験してきた「狼(ロボ)」こと水野竜一が、「風の聖衣」から数年を経て、再び日本での死闘を繰りひろげる。

「もっと続きが読みたい」と思わせる竜一の生き方と、久しぶりに祖国に戻った竜一の人間的な面を垣間見ることができる作品。かなりお勧め。この本がなかなか見つからず、八重洲の大手書店で見つけたときは嬉しかったなあ…。

【以下、関連作品】
北方謙三「檻」(挑戦シリーズ関連作品)
北方謙三「風群の荒野」(挑戦④)
北方謙三「風の聖衣」(挑戦③)
北方謙三「冬の狼」(挑戦②)
北方謙三「危険な夏」(挑戦①)


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January 17, 2008

北方謙三「黙約」(ブラディ・ドール⑥)

北方謙三「ブラディ・ドール」シリーズ⑥にあたるのが、この「黙約」。タイトルもかっこいいよなあ…。個人的にはこのシリーズで、もっともドキドキしながら読んだ作品。
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主人公は、抜群の腕を持ちながら、大学病院を辞め、このN市に流れてきた外科医、桜内。文庫カバーには、「砂糖菓子のように崩れていく―女はそう形容した。そんな男に魅かれるのだと……。手術には抜群の技量を持ちながら、野心に背を向け、場末をさまよう流れの外科医。闇診療に手を染めたのも、港町の抗争に巻き込まれたのも、成り行きで意地を張ったのがきっかけだった」とある。

N市に開いた診療所で、闇診療に手を染める桜内。あるとき、立て続けに重症患者の手当てを引き受ける。その見事な処置ゆえに、抗争のなかに巻き込まれ、何人もに探られる。警察権力にも意地を張り、脅しや圧力を避けようともしなかったことで、事態はますます複雑になる。

しかし桜内は、そうした時間のなかで、N市に集まっていた「ブラディ・ドール」の男たちとも出会い、互いに関心を持つようになる。

男だけではない。桜内の腕に目をつけた大崎内科の女医、大崎ひろ子とも出会う。そして、かつてはやくざの女房で、血の好きな女と周囲に揶揄される看護婦、山根知子は、自ら桜内の愛人を志願する。

拉致され、痛めつけられても、暴力に屈しない桜内。川中のもとに集う藤木や坂井、そして叶などのように、戦闘力で暴力に対抗するわけではない。気持で屈せず、頑なに意地を張り続ける姿に、知子は何かを感じる。

ついには、自らが腿を撃たれ、体内に残った銃弾の破片を、知子だけを助手に、自分の手で摘出する。点滴もないままだ。

複雑に入り組んだ抗争のなかで、敵の擁する日本刀を使う腕利きの刺客には、坂井までも傷つけられる。しかし、最後にその刺客を退けたのは藤木だった。

これで事態は収拾に向かうかと思いきや、ことの発端を起こした人物である、藤木の元兄弟分、高安は、最後に藤木との間で、昔のケリをつけようとする。

互いに自分が殺されることを望んでいながら、勝負を決しようと対峙する二人。川中も坂井も桜内も、急いで現場に向かっていく。

その後の重く悲壮な結末は、この後も続く「ブラディ・ドール」シリーズの行方を象徴するかのようだ。自らの掟にこだわり、闘って去っていった男たちを、残された仲間は忘れることなく生きていくことしかできない。

実は本作「黙約」は、このシリーズの⑩にあたる「ふたたびの、荒野」を除くと、いちばん最後に読んだ作品だった。これより後の作品に、なぜ藤木が登場しないのか、理由はわかるものの、その経緯を知りたくてうずうずしていたのだが、書店でも古書店でも、なかなか見つからなかったのだ。

物語の途中で、藤木のジッポを何気なく託される坂井。それを見ていたキドニー。

エンディングの場面と、そこで交わされる男たちの科白には、「ブラディ・ドール」ファンなら涙せずにはいられないと思う。

【以下、関連記事】
北方謙三「黒銹」(ブラディ・ドール⑤)
北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)


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北方謙三「檻」(挑戦シリーズ関連作品)

北方謙三「挑戦」シリーズ③の「風の聖衣」で、ペルーの山中で「狼(ロボ)」こと水野竜一に闘いを挑む元刑事・村沢が登場する物語。北方作品のなかでは初期のもの。「檻」というタイトルが意味するもの(=男たちが自らを縛るもの)は、その後も多くの北方作品の底流に共通する。
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主人公は、滝野和也。文庫カバーの紹介文には、「やくざな世界から足を洗って、今は小さなスーパーを経営している滝野和也。そのスーパーの買収工作をめぐるいざこざから、滝野の野性の血が再び噴き出す。結局は“檻”のなかにとどまれず、修羅場に戻っていく男の滅びの美学を、鮮烈な叙情で謳いあげた北方ハードボイルドの最高傑作!」とある。

後に多くの北方作品の重要な登場人物となる「老いぼれ犬」高樹刑事も登場。村沢は、このときは高樹とペアを組み、有望な柔道選手でもある若き刑事として、高樹とともに滝野を追う。

しかし、村沢には、かつて犯人が手にした刃物を怖れ、目の前を素通りさせてしまったという苦い経験があった。その分、刃物を使う滝野を、よけいに意識して対峙しようとする。

物語のラストで村沢に撃たれ、死んでいこうとする滝野は、「檻…」、「出られた、ぜ、旦那」と高樹に言い残す。これは、後に「挑戦」シリーズ③の「風の聖衣」のラストで、竜一と闘い、同じように死んでいこうとする村沢が、「狼(ロボ)の牙が、俺は、怕くなかった。はじめて、闘えた」と言い残す場面と重なる。

闘いを見守った石本一幸に、村沢は、「老いぼれ犬に伝えろ。けものが、一匹、こうやって、死んだとな」とメッセージを託す。うなずく石本。その後、「挑戦」シリーズ④の「風群の荒野」で、日本に戻ってきた石本が、高樹にそれを伝える。

自分自身を閉じ込める「檻」から、血の噴出によって飛び出そうとする男たち。死んでいった友を心に宿し、命を賭して闘うことを決意する男たち。そして、そうした「けものたちの死」をじっと見守り続ける「老いぼれ犬」高樹。

やはり北方ファンとしては、一度は読んでおきたい、北方ハードボイルドの“源流”作品といえるのではないか。

【以下、関連作品】
北方謙三「風群の荒野」(挑戦④)
北方謙三「風の聖衣」(挑戦③)
北方謙三「冬の狼」(挑戦②)
北方謙三「危険な夏」(挑戦①)

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January 16, 2008

北方謙三「黒銹」(ブラディ・ドール⑤)

北方謙三作品「ブラディ・ドール」シリーズの第5作となった本作「黒銹」は、標的を追ってN市にやってきた、お喋りな殺し屋、叶が主人公。物語は叶の一人称で書かれている。
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しかし、実際のストーリーは、殺し屋・叶だけが主人公というよりも、落魄れた一流ピアニスト、沢村明敏と叶の感情が交錯する、二人主人公の物語といってよいだろう。

ターゲット、町田を追ってきた叶は、町田の女と見られる映子を探す。その街で、かつて若い時代に演奏を聞いたピアニスト、沢村と出会う。

かつて薬と酒に落ちていった女に、自らを重ね合わせて、第一線から退いていった沢村。しかしその時代に「ピアニストとしては堕落していなかった」という意味のことを沢村は語る。そしていまは映子を愛する沢村。

川中や坂井と一緒に出たトローリングで、細腕の沢村は力を振り絞って、かかった魚との死闘を繰り広げる。その姿を見守る川中、坂井、叶。そして映子。沢村がいまも「男」であることを、言葉でなく感じ取る叶。

やがて叶は、今回の殺し屋としての仕事のターゲット(標的)である町田を見つける。しかし、町田に銃を向ける叶の前に立ちはだかったのは、ピアニスト・沢村だった。

いま自分が愛する映子の代わりに、叶の向ける銃の前に身をさらす沢村。「彼女がやりたいことを、させてやりたい」と呟く沢村を前に、殺し屋としての経歴のなかでは初めて、いったん銃を下ろす叶。

そして、映子とともに逃亡しようとする町田と、町田を追い詰めるN市のやくざたち。海の上の闘いで、叶は沢村に断って、町田の眉間を射抜く。

同時の炎上する敵の船。映子を助けようと、敵のす船をすり抜けるように近づいた船から、炎のなかに飛び込む叶。坂井もその一瞬を見守るしかない。

映子を背負い上げ、爆風とともに海に投げ出される叶と映子。

しかし、すでに全身を炎に包まれていた映子は、やがて死亡する。叶が射抜いた町田も焼死扱いとなる。

若き日に、その音色に心を震わせたピアニスト・沢村の演奏を思い出し、近づいた叶。探し求めた標的を前に立ちはだかる沢村を前に、その場では銃を撃つことのできなかった叶。しかし、三者が入り乱れる闘いのなかで叶は、船上で揺れる町田の眉間を射抜く。

映子を死なせてしまった思いと、何か心で通じ合ってしまった沢村やキドニーとの闘いのなかで、自らの生き方を揺さぶられる叶。

シリーズのなかでは、欠かすことのできない、沢村と叶という登場人物二人の感情の揺れが、ストーリーの中軸となっていることから、何かひと味違った読後感がある作品だ。

【以下、関連記事】
北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)

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January 15, 2008

北方謙三「風群の荒野」(挑戦④)

北方謙三「挑戦」シリーズの第4弾。前作「風の聖衣」で、傭兵として雇われたゲリラ戦で、村沢とともにペルーの山岳地帯で族長アキの率いる村を攻め、「狼(ロボ)」こと水野竜一と闘った石本一幸。この石本が再びロボに挑むのが、この「風群の荒野」だ。
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「風の聖衣」のラストでは、ロボに死闘を挑む村沢の闘いを見届けた石本。ロボに敗れながらも、怖れていた刃物と正面から向き合って闘ったことで、自らの「檻」から出ることのできた村沢の死の意味を、石本も自ら抱え込む。

物語のなかでは、その後、フランス外人部隊を経て、チャド軍の傭兵として、リビアでの死闘を体験してきた石本が、さらに危険な男となって日本に帰ってきた。

リベリア国籍の男として帰国した石本に、すぐさま「けものの匂い」を感じ取り、かつて自分が国外に逃がした石本一幸だと知る「老いぼれ犬」高樹。ホテルの部屋に踏み込み、二人がかりで石本を逮捕しようとした高樹と相棒の刑事を、石本は一蹴する。

そして「けものが一頭、南米で野垂れ死をしましたよ」と高樹に伝える石本。ロボとの闘いで死んだ村沢は、かつて高樹がペアを組んだ刑事だった。

そして日本での目的を終えると、やがてペルーに舞い戻り、3人の傭兵仲間とともに部隊を引き連れ、再びロボこと水野竜一の守る村を攻める。

やはり以前、村沢とともに行動し、石本が戦闘術を教えたキナは、すでに成長し、ロボとともに村を守る戦士、「狐(ゾロ)」と呼ばれるようになっていた。

石本を含む4人の傭兵は、いずれも一騎当千のプロ。しかしロボの戦闘術は、彼らをも怖れさせる。それでも闘いを続ける石本と仲間たち。

闘いのなかで、かつて自分が鍛えたゾロを殺し、さらにロボを己との闘いに引き出そうとする石本。アキだけでなく、多くの仲間を失って、自分が村にいることの意味に疑問を持つ竜一。しかし、盟友アキが残した赤ん坊、アキをさらわれたことから、竜一は石本からアキを取り戻す闘いに出ることを決意する。

ペルーに戻ったときに、かつて村沢がともに過ごした女と、その子どもペロに出会っていた石本。ペロは村沢がロボとの死闘の前に、女との間に残した息子だと知る。アキをさらってロボをおびき出そうとする道行きの途中で、再び石本は、この親子と出会う。

病気で死を前にした女からペロを預かり、アキとともに連れていく石本。皮肉にも、かつての族長アキの子どもアキと、その族長アキを殺した村沢の子どもペロは、短い間に互いに慣れ、まだ赤ん坊ながら、まるで兄弟のように過ごす。

そして、ロボこと竜一が追いついてきたことを知る石本は、自ら望んだ最後の闘いに出る。樹木の向こうから、風に乗って聞こえてくる「老犬トレー」の口笛。

短いが凄まじい死闘の末、石本は竜一に敗れる。やはりロボの戦闘術は、傭兵として数多くの経験を積んだ石本をも凌駕していた。

死んだと思った。しかし、再び目を覚ます石本。近くで聞こえる赤ん坊の声と、それをあやしながら石本を見守るマーサ。高樹、竜一の姿もあった。

「なぜ、助けた」と問う石本に、「簡単に、死ねると思うな」と答える竜一。「なにを背負っていくんだ、俺は?」、「答えろ、ロボ」という石本の声に、「死を、背負え、村沢の、キナの」と答え、アキを連れて去っていく竜一。このとき竜一も、再び村では暮らさない決意をする。

かつて死んでいった「けもの」村沢と、その死を背負っていきていく石本一幸。そして、やはり死んでいった友や仲間の死を背負い、闘いの意味と己の存在に疑問を感じながらも、やはり生きていけざるをえない水野竜一。それらの「けものたち」の死と生を、これからもただ見守り続けることになる「老いぼれ犬」高樹。

個人的には、この「挑戦」シリーズで最も印象強い作品が、本作「風群の荒野」だった。修羅場をくぐりぬけ、なお生き抜いて、高樹をも怖れさせる男になって再び現われた石本一幸。その石本をも倒す技量を持った水野竜一。

しかし、闘いに勝っても負けても、何かを背負って生きていかなければならない男たち。しかも彼らの「けものの血」が、一般の社会に、彼らが生きていく場所を与えない。

次回作では、人里離れた山奥にひっそりと生きている水野竜一が再び主人公。それを早く読みたくて、本屋を何軒も回って探したものだ。


【以下、関連作品】
北方謙三「風の聖衣」(挑戦③)
北方謙三「冬の狼」(挑戦②)
北方謙三「危険な夏」(挑戦①)

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January 14, 2008

北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)

北方謙三「ブラディ・ドール」シリーズの第4弾。すでに50歳台の後半になっている有名画家、遠山一明が若い女連れでN市にやってくる。前作で登場した秋山律の経営するホテル・キーラーゴに宿泊する遠山と連れの玲子。暴力などまるで無縁だったこの初老の有名画家が、若い女のために、命を賭けて行動するのが本作「秋霜」だ。Syuusoubloodydoll3


何度か危険にさらされ、自らも暴力に対して身体を張って、恋人・玲子を守ろうとする遠山。しかし、玲子はやがて姿を消す。行方不明になった玲子を探す遠山。

岬の突端の部屋に隠れているという情報を聞き、わが身をかえりみず、玲子のもとに向かおうとする遠山。ふるいヨットハーバーをひっそりと守る老人・蒲生に頼み込み、夜の海を岬に向かう。激しい潮流を蒲生の操船ですり抜け、岬にたどり着く遠山。

陸にたどり着くと、切り立った絶壁をよじ登って、遠山は玲子のもとへ向かおうとする。岩から落ちれば、死。頼れるものは、すでに老いた自分の力と、この行動に賭ける気持だけだ。それでも渾身の力を振り絞って、遠山は岩壁を登り切る。「生きている」と、心の底からそう思う遠山。

玲子のもとにたどり着いた遠山の目的は、ただひとつのことだけを玲子に伝えることだった。「おまえには、私がいる。それだけを伝えておきたかった」。

絵を描いて生きてきた自分。暴力沙汰とは縁がなかった自分など、玲子を守るためには、生命ひとつ分の弾丸よけにしかならないだろう。それがわかっていても、生ある限り、玲子を守ろうと決めた遠山。

遠山を乗せた蒲生も、その友人船長・土崎も、偶然に沖から遠山が岩壁をよじ登るのを見つけた坂井も、川中も、この初老の有名画家の行動に何かを感じ取る。

実はこの玲子とは、かつてシリーズ①「さらば、荒野」の闘いのなかで命を落とした、川中エンタープライズの若いフロアマネージャー、内田の妹の悦子だった。同時にこの兄弟の親代わりだった川中の友人も、このとき川中は失っている。それだけに川中は、玲子の巻き込まれたトラブルと無縁ではいられない。

船で敵に向かい合い。平然と敵に姿をさらす川中と遠山。しかし、その二人を援護して銃を構える土崎と藤木。いったんは別れた敵の手から玲子を取り戻すべく、自分の身体を敵前にさらすことで、玲子を守ろうとする遠山。

玲子のいる岬の家の隣に立てこもり、絵を描き続ける遠山。そこで絵を描くことで、忘れかけていた己の生を再び感じる遠山。

最後には、玲子を狙う敵は倒したが、玲子も撃たれて死ぬ。自らも玲子の盾になり、撃たれた遠山だが、自分は生き残ることになる。

最後に玲子と岬の家で話せたことで、自らの生き方と、絵を描くことをもう一度、考えることができた遠山。

自分を投げ出すように生きて、死んでいった者たちをいつまでも忘れることができない、残された男たち。N市のそんな馬鹿な男たちの仲間に、いつか遠山もなっていく。

【以下、関連記事】
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)


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January 13, 2008

北方謙三「風の聖衣」(挑戦③)

シリーズ前作の「危険な夏」、「冬の狼」で、深江、野口、ギイさんといった仲間たちとともに国内で闘い、その結果、敵を殺めた水野竜一は、再びペルーの高山地帯に帰り、盟友アキとともに村を守る闘いの日々を送る。

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その竜一に己の存在を賭けて闘いを挑む、元刑事・村沢が主人公となる物語がこの「風の聖衣」。後にシリーズ④「風群の荒野」の主人公となる石本一幸も登場する。

「狼(ロボ)」と呼ばれ、村の守護神として闘いの指揮をとる竜一に、傭兵として新たな闘いを挑んでゆく、元刑事の日本人ゲリラ・村沢。その闘いに同じく傭兵として加わる石本一幸。

多くの敵対するゲリラが、制圧の要所とされる村を守るアキと竜一の隊を攻め続けるが、「狼(ロボ)」という異名をとり、軍神のごとく隊を指揮して敵を寄せ付けない日本人を殺害するために、村沢、石本を雇う。

互いに意識し続けながらも、やがてロボこと水野竜一との戦いに没頭していく村沢と石本。しかしロボの戦闘術は、二人の指揮する兵士の技量を上回り、何度でも撃退される。

そのうち村沢は、ロボを殺すことだけが、かつて刃物を怖れたことから、撃たなくてもよかった相手を銃殺してしまった己の弱さの克服と、その後、自分を締め付け続ける、目には見えない「檻」からの脱出の方法と思い定める。その手段として、村沢は最後にロボの盟友アキを誘い出し、殺害する。

村を率いるアキを失い、盟友を喪失したことで闘いの意味を見失いかける竜一。しかし竜一は、やはり村沢を殺す決意をし、村沢を追うために山を降りる。

竜一を誘い出すことに成功した村沢は、ロボこと竜一に、己の最後の闘いを挑む。

凄まじい死闘の末に、竜一に倒される村沢。しかし死を前にした村沢は、ようやく自分の「檻」から解き放たれる。その闘いを見守る石本一幸。

かつて村沢とともに行動し、その後、アキを殺した村沢に挑んだ少年キナも、闘いのあとにアキの村に加わることを望むが、竜一はそれを受け入れない。石本はキナを戦士として鍛えることを竜一に誓う。

結果として、望むと望まないとにかかわらず、アキの殺害と村の存立をめぐって、同じ日本人どうしで殺しあうことになった竜一と村沢。その闘いに加わっていた石本。

かつて「老いぼれ犬」高樹刑事が、「けもの」と評して、自らの手で海外に逃がした竜一と石本という二人の若者と、やはり昔にペアを組んでいた後輩刑事・村沢とが、奇しくもペルーの高山地帯で出会ってしまう。

「けものの血」が呼び合うのか、闘いのなかで出会ってしまった3人。ときに高樹の癖であった「老犬トレー」のメロディーを、3人の若者はいずれも心に刻んでいる。

この「挑戦」シリーズだけではなく、以前の作品である「檻」(村沢が登場)、「牙」(石本一幸が登場)からもつながっている、本作「風の聖衣」を読んで、あらためて前作が読みたくなったのが、20年ぶりに北方作品にのめりこむきっかけとなった作品。

以前に読んだことのあった「檻」を読み返してみて、村沢がその事件を通して抱え込んだものが、あらためてわかった。「老いぼれ犬」高樹刑事が、血なまぐさい事件に巻き込まれ、それでも闘おうとする若者に「けものの匂い」を感じ取り、死に急ぐ若者を自ら海外に逃がしてしまうことになる、その理由の一端を感じさせるのが、これら一連の作品だ。

「檻」を読み返した後、古書店ではほとんど見つからなかった「牙」をようやく書店で見つけ、買い求めることができたときは嬉しかった。「牙」では、祖父のもとで庭師の見習いをしていた石本一幸が闘いに巻き込まれ、祖父が命を奪われる。「老いぼれ犬」高樹の心配をよそに、一直線に敵に挑んでいく石本。

己の弱さを克服して「檻」から逃れるために闘い続けて、やがて竜一との闘いを通して初めて、自らの呪縛から解放され、死んでいく村沢。その死の意味をも抱え込んで生きていく竜一と石本。

その後、石本はシリーズ次作「風群の荒野」で再び竜一に闘いを挑み、敗れる。その闘いの後、再び二人に「けものとして生きていく」ことを促す、老いぼれ犬・高木。

もう、このあたりまで読んでしまうと、すっかり北方謙三のシリーズ作品の魔力に取り込まれた印象。これからどうなる竜一? どうなる石本? という感じで、連作のとりこになるきっかけとなった印象強い作品。

【以下、関連作品】
北方謙三「危険な夏」(挑戦①)
北方謙三「冬の狼」(挑戦②)

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北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)

北方謙三「ブラディ・ドール」シリーズの第3弾にあたる「肉迫」。かつてフロリダでホテルを経営し、妻を亡くして日本に帰ってきた秋山律が主人公。その娘・安見と、秋山の古くからの友人である老練な船長・土崎三生が主な登場人物。Nikuhakubloodydoll4


裏表紙のキャッチにはこうある。「固い決意を胸に秘め、男は帰ってきた。港町N市―妻を失った男には、闘うことしか残されていなかった。男は抗争の火種のような土地を手に入れた。予想通りの妨害、脅迫。その背後にひそむ開発会社の社長こそフロリダで妻を殺した黒幕なのだ」。

その土地をめぐり、宇野、川中と出会う秋山律。その土地に隣接する、海側の土地に新しいマリーナを建設したいと考える川中。「俺なら、そこにマリーナを造るがね」と、川中と同じことを考える土崎三生。

争いの動きが少しずつ見えてくるなかで、かつて藤木が川中と出会い、その後、坂井のねぐらとなり、いまは海沿いにひっそりと営業する「レナ」で、ひとり店を守る渡辺菜摘と秋山は出会う。

いまは、この「レナ」は川中エンタープライズが経営する店のひとつ。ここで菜摘は、手間のかかった素晴らしく美味いコーヒーを出している。

秋山が手にした土地の工事が次々と妨害なれるなかで、一人、基礎の溝を掘り続ける秋山。それを見守る土崎。川中も秋山の行動を眺めている。

やがて抗争のなかで、秋山の娘・安見がさらわれる。かつて妻の命を奪われ、大切なものを守ることができなかった悔いを胸に、秋山の闘いの血が目覚める。

安見を助けるために、敵の条件を呑み、パイソンを手にして、川中を殺そうとする秋山。それを防ぐために秋山の腿を撃つ藤木。

安見の救出のために、藤木、坂井とともに動きだす川中。安見を助け出すために、秋山と土崎、川中に協力する菜摘。川中が所有し、坂井が操る「レナⅢ世」と、土崎の運転する「キャサリン」で、海の闘いに出る。

片足が使えなくなった秋山は、菜摘とともに川中からの連絡を待つ。安見発見の連絡を受け、藤木のルカイラインで秋山の足代わりとなって、海沿いから山道をとてつもないスピードで飛ばす菜摘。川中の行動と、菜摘の運転にすべてを預ける秋山。

そして安見を助け出して菜摘に預け、最後の闘いに向かう秋山。傷ついた安見の気持を母親のように包み込む菜摘。海と陸とで、連携をとって敵を追う川中、藤木、坂井、秋山、土崎。闘いのなかで坂井も傷つく。

最後は火炎瓶で敵の船を炎上させ、乗り込む川中と藤木、秋山。妻の敵をうち、罪をかぶろうとする秋山だが、川中と藤木はそれを許さない。「レナ」を秋山に買い取らせて、秋山に生きることを促す川中。藤木も「人を殺しても、それほど苦しまなくてもいい場合もあるということをです」と秋山にそれを勧める。

川中、宇野、藤木、坂井に続き、このN市に現われる新たな男たち。その男たちの闘いに巻き込まれていく女たち。闘いを助ける、存在感豊かな男たち。こうした「ブラディ・ドール」シリーズの物語構成が、あらためて浮き彫りになったのが、この「肉迫」だ。読後感がいっそう重厚になり、その後の展開が興味をそそる一冊。

【以下、関連記事】
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)

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北方謙三「冬の狼」(挑戦②)

この「冬の狼」は、前作「危険な夏」に続いて、水野竜一が再び深江、野口、ギイさんとともに闘う「挑戦」シリーズの第2弾。
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「危険な夏」の後、抱いていた夢のとおりに南米に渡っていた竜一が、3年ぶりに帰国。かつての仲間だった大人たち、深江、野口、ギイさんを訪ねると、深江は姿を消し、野口、ギイさんも、深江のつくった会社では居場所をなくし、他の場所で深江を忘れたかのように生きていた。

そうした状況のなかで、竜一は深江を探そうとする。竜一は同時に、南米での仲間たちが伐採した大量の材木の、日本への輸出先を見つけることが目的だった。

そこで、吉川合板の女社長・吉川栄と出会う。竜一が日本へ運ぼうとする材木を得ることで、周囲からの圧力による危機的状況を打開し、会社を再建しようとする栄。南米での義兄弟・アキとその村の仲間のためにも、確実に日本への輸出を成功させようとする竜一の利害は一致した。

しかし、行方のわからない深江を探すことで、危険な敵と遭遇し、戦いの深みに自ら踏み込んでいく年下の竜一に、栄は商売を超えた感情を寄せるようになる。

かつて深江の盟友であった光村の真意を探り、深江を見つけようする竜一。そして、想像を超えた大敵に立ち向かおうとする深江の意思を知る。やがて、野口、ギイさんも、深江を探す竜一の闘いに加わる。

アキを首長とする南米の山中の村と、そこでの仲間を守るために、ゲリラと闘い続けるなかで、さまざまな戦闘術を身につけ、ゲリラからも「狼(ロボ)」と呼ばれて恐れられるようになっていた竜一。その竜一の闘いの血が、深江の敵との闘いで再び目覚める。

しかし、深江を探す闘いのなかで、片腕の老人、ギイさんが命を落とす。この闘いは、竜一と野口にとって、なおさら避けることのできないものとなる。

やがて深江とも会うことができ、意図を理解した竜一。抑えていたけものの血が、竜一を死地に向かわせる。

「あたしの誇りは竜よ。あたしの狼、冬に向かって走る狼」といって、竜一に唇を重ねる吉川栄。

「老いぼれ犬」高樹も登場。竜一にけものの匂いをはっきり感じ取り、牽制をしつつも、一人でも闘いに突っ走る竜一をあえて抑えようとはしない。

やがて闘いは終わり、深江と敵対していると見せかけていた光村は、巨大な敵の策謀の証拠を手にして、検察で深江の主張を裏付ける証言をする。

闘いには勝つことができた。しかし、ギイさんはもういない。闘いには勝ったが、野口の命を奪った相手はまだ生きている。たった一人で政治家・宇野の屋敷に踏み込み、宇野の命を奪ったものの、同時に己の胸にも銃弾を受ける竜一。

そして、竜一の殺人を宇野の自殺として処理して、竜一を再び南米へと逃がす「老いぼれ犬」高樹と深江。南米に向かうミゲール号に竜一とともに乗り込んだ吉川栄は、ペルーのアキとの約束、自分との約束を守るためにも、竜一が死ぬことを許さない。

こうして再び南米へと向かう竜一の今後の生き様と闘いが、この「挑戦」シリーズを通してテーマとなる。

このシリーズ1作「危険な夏」と第2作「冬の狼」は、国内が物語の舞台だが、この後の物語は主にアンデスの山中へと舞台を移す。

ゲリラと死闘を繰り広げる「狼(ロボ)」こと水野竜一が、なぜ闘い続けることになったのか、その経緯が書かれているのが、本作「冬の狼」だ。

【以下、関連作品】
北方謙三「危険な夏」(挑戦①)

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January 12, 2008

北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)

北方謙三「ブラディ・ドール」シリーズの第2弾。
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その後、シリーズ⑩「ふたたびの荒野」に到るまで重要な登場人物となる坂井の登場。シリーズのなかでは一番人気ともいわれ、後に登場する下村からは“天使”と呼ばれる若いキャラ。

年は若いが、先に「ブラディ・ドール」のバーテンとなっている藤木年男の後を継ぎ、川中は毎日変わらず18時半に店で飲む、シェイクしたドライ・マティーニを作れる唯一の存在となる。

ドライビング・テクニックはレーサー並み。しかし、ふたんはバイクが足で、軽やかなフットワークが持ち味。ただ、この坂井も、実は二年間の刑務所暮らしの後に、川中と藤木を狙う鉄砲玉として、このN市に送り込まれた刺客だった。

それでも、この街で川中と出会い、藤木と出会い、そして川中を襲うが、死闘の末に川中に殴り倒されて、坂井自身の心が少し開く。自分よりもはるかに役者が上の藤木に強く惹かれ、やがて藤木が命を後してからは、まるで藤木の後を継ぐように、川中を守ることに徹していく。

藤木の乗っていた黒のスカイラインと、ジッポーのオイルライターを受け継ぎ、「ブラディ・ドール」のバーテンとして、同時に川中の影のような存在として、N市の闘いでは、常に行動の中心にいることになる。

藤木といい、坂井といい、一度は命を捨てたものだと思い込んだ、捨て鉢な覚悟を持つ男が、川中という男と出会ったことで、少しずつ変わっていく。これも「ブラディ・ドール」シリーズの醍醐味だ。

坂井の捨て身の行動と、ときおり見せる若さゆえの暴走と人間味。これが「碑銘」の魅力のひとつだということは間違いない。

【以下、関連記事】
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)

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January 11, 2008

北方謙三「危険な夏」(挑戦①)

北方謙三作品のなかでも躍動感あふれる「挑戦」シリーズの①となった「危険な夏」。Kikennanatucyousen1


シリーズ一連の作品のなかで主人公となるか、もしくは主な登場人物となる若者・水野竜一が初登場。まだ大学生であった竜一が、アルバイト先の深江産業で社長の深江冽、野口、ギイさん、小坂という大人たちと出会う。

意地を賭けて巨大企業に挑む彼らの闘いに加わることで、やり場のないエネルギーを持て余していた竜一は強烈な夏を体験する。

自分の部屋の壁に、ペルーを中心にしたアンデス山脈の地図を貼り、「地球の裏側に行ってみたい」という夢を抱いていた水野竜一。正式に調査されていないため白いままのペルーの山地の地図。その白い部分に「自分で色をつけてみたい」と野口に話す竜一。

闘いが終わった後、深江産業を再開しようとする仲間たちと離れて「南米へ行ってみよう」と思う竜一。この後、ペルーの山中でゲリラとなり、壮烈な殺人術を身につけて「狼(ロボ)」と呼ばれる戦士になる水野竜一の旅が、ここから始まる。

作中には、シリーズを通して欠かせない役割を演じる「老いぼれ犬」高樹刑事も登場。若き竜一にも「けもの」の匂いを感じ取る。

深江の恋人・朝子の存在感も魅力。

実はこの作品を一度読んで忘れかけてから、「挑戦」シリーズの②の「冬の狼」を読んでみたら面白く、また古書店で「危険な夏」を見つけて読み直した。

次作「冬の狼」でも登場する深江、野口、ギイさんという人物たちとの出会いにさかのぼることで、「危険な夏」がより面白く読めた。

後にはほとんど無敗の戦士となる竜一も、この「危険な夏」の冒頭では、街中の喧嘩で野口に殴り倒されている。

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January 10, 2008

北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き

北方謙三「さらば、荒野」について昨日の続き。Sarabakouya


本書「さらば、荒野」は、この一連の「ブラディ・ドール」シリーズを通して物語の中心であり続ける、川中良一が主人公だ。

N市に流れ着き、ダンプ1台から始めて、身体を張って徐々に事業を広げてきた、川中エンタープライズ社長の川中良一が、弟・新司の失踪をきっかけにさまざまなトラブルに巻き込まれ、自身の命を賭けた闘いに踏み出す本格ハードボイルド。

後に本シリーズの欠かせない重厚な脇役となるバーテン・藤木年男と川中との出会いもこの物語で始まる。この街の辣腕弁護士である盟友・宇野(あだなはキドニー)と川中との、後々まで続く微妙な確執もここから始まる。

一度は何気なく読み飛ばしてしまったこの「さらば、荒野」が、後になって名作「ブラディ・ドール」シリーズの幕開けだと知ったのだが、川中、藤木、宇野の強烈な存在感は読後に強い印象を残した。

とくに惹かれたのは、かつて東京で組の親兄弟を刺し、このN市に流れてバーテンをしながら、自分を追ってくる刺客から隠れようともせず過ごしている藤木のキャラクター。

後にシリーズ⑥にあたる「黙約」のなかで命を落とすが、死後も川中だけでなく、多くの登場人物に強烈な存在感を残していく藤木が、川中と出会い、傷だらけの川中をかくまったことから、ともに闘い、言葉少ないながらも強い心の絆で結ばれていく経過がこの物語でわかる。

まずは「ブラディ・ドール」に関心を持った方には必見のオープニングだ。

【以下、関連記事】
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き

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January 09, 2008

北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)

この2ヶ月ほど、北方謙三の文庫本を読み続けている。まだ20代の頃に、デビューから間もない氏の初期の著書を何冊か読んだことがあったが、それから20数年、北方謙三の本を手に取ることはほとんどなかった。

最近では、精力的に書き続けている歴史ものが売れていることが知っていたが、それも1冊買って読みかけのままの状態だった。

しかし、暇つぶしに買ってみた何冊かを読んでみて、それから連続して50冊近く読んだことになるだろうか。とくに面白かったのは、「ブラディ・ドール」、「約束の街」、「挑戦」といったシリーズものや、高樹刑事が登場する「老いぼれ犬」シリーズだった。

なかには現在、書店の棚では見つかりにくくなったものもあるので、覚書として書き綴っておくことにした。

まずは「ブラディ・ドール」シリーズの①とされている「さらば、荒野」についてだ。
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このシリーズを通じて、さまざまな男たちが集う舞台の、常に中心にいる人物となる男・川中良一が主人公。その川中とめぐり合う藤木年男。川中の旧来の友人である弁護士キドニー、ここから男たちの「こだわり」と、捨て身で闘いながら生き、あるいは死んでいく男たちの物語が始まっていく。

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January 08, 2008

転居から1年…

隅田川のほとり、両国の江戸東京博物館の近くに引っ越してから、1年が過ぎた。それまでも両国に長いこと住んでいたのだが、より両国っぽいエリアになった。

徒歩50メートル圏内に相撲部屋、ちゃんこ鍋屋もあり、相撲の始祖といわれる野見宿禰神社(のみのすくねじんじゃ)もある。

「隅田川の近くに住みたい」というだけの理由で、この墨田・江東エリアに住み始めてから、すでに20年近くなる。もともと生まれが東京都大田区の多摩川の近くで、子どもの頃から川原を遊び場にして育ったことと、20代の頃にドラマでやっていた「男女7人夏物語」が好きだったことが、この地に住むきっかけだった。それを人にいうと笑われることがあるが、そんな地縁があってもよいのではと思っている。

この東京の下町で出会えるさまざまなことを、記録として綴っていければと思う。

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