北方謙三「風群の荒野」(挑戦④)
北方謙三「挑戦」シリーズの第4弾。前作「風の聖衣」で、傭兵として雇われたゲリラ戦で、村沢とともにペルーの山岳地帯で族長アキの率いる村を攻め、「狼(ロボ)」こと水野竜一と闘った石本一幸。この石本が再びロボに挑むのが、この「風群の荒野」だ。

「風の聖衣」のラストでは、ロボに死闘を挑む村沢の闘いを見届けた石本。ロボに敗れながらも、怖れていた刃物と正面から向き合って闘ったことで、自らの「檻」から出ることのできた村沢の死の意味を、石本も自ら抱え込む。
物語のなかでは、その後、フランス外人部隊を経て、チャド軍の傭兵として、リビアでの死闘を体験してきた石本が、さらに危険な男となって日本に帰ってきた。
リベリア国籍の男として帰国した石本に、すぐさま「けものの匂い」を感じ取り、かつて自分が国外に逃がした石本一幸だと知る「老いぼれ犬」高樹。ホテルの部屋に踏み込み、二人がかりで石本を逮捕しようとした高樹と相棒の刑事を、石本は一蹴する。
そして「けものが一頭、南米で野垂れ死をしましたよ」と高樹に伝える石本。ロボとの闘いで死んだ村沢は、かつて高樹がペアを組んだ刑事だった。
そして日本での目的を終えると、やがてペルーに舞い戻り、3人の傭兵仲間とともに部隊を引き連れ、再びロボこと水野竜一の守る村を攻める。
やはり以前、村沢とともに行動し、石本が戦闘術を教えたキナは、すでに成長し、ロボとともに村を守る戦士、「狐(ゾロ)」と呼ばれるようになっていた。
石本を含む4人の傭兵は、いずれも一騎当千のプロ。しかしロボの戦闘術は、彼らをも怖れさせる。それでも闘いを続ける石本と仲間たち。
闘いのなかで、かつて自分が鍛えたゾロを殺し、さらにロボを己との闘いに引き出そうとする石本。アキだけでなく、多くの仲間を失って、自分が村にいることの意味に疑問を持つ竜一。しかし、盟友アキが残した赤ん坊、アキをさらわれたことから、竜一は石本からアキを取り戻す闘いに出ることを決意する。
ペルーに戻ったときに、かつて村沢がともに過ごした女と、その子どもペロに出会っていた石本。ペロは村沢がロボとの死闘の前に、女との間に残した息子だと知る。アキをさらってロボをおびき出そうとする道行きの途中で、再び石本は、この親子と出会う。
病気で死を前にした女からペロを預かり、アキとともに連れていく石本。皮肉にも、かつての族長アキの子どもアキと、その族長アキを殺した村沢の子どもペロは、短い間に互いに慣れ、まだ赤ん坊ながら、まるで兄弟のように過ごす。
そして、ロボこと竜一が追いついてきたことを知る石本は、自ら望んだ最後の闘いに出る。樹木の向こうから、風に乗って聞こえてくる「老犬トレー」の口笛。
短いが凄まじい死闘の末、石本は竜一に敗れる。やはりロボの戦闘術は、傭兵として数多くの経験を積んだ石本をも凌駕していた。
死んだと思った。しかし、再び目を覚ます石本。近くで聞こえる赤ん坊の声と、それをあやしながら石本を見守るマーサ。高樹、竜一の姿もあった。
「なぜ、助けた」と問う石本に、「簡単に、死ねると思うな」と答える竜一。「なにを背負っていくんだ、俺は?」、「答えろ、ロボ」という石本の声に、「死を、背負え、村沢の、キナの」と答え、アキを連れて去っていく竜一。このとき竜一も、再び村では暮らさない決意をする。
かつて死んでいった「けもの」村沢と、その死を背負っていきていく石本一幸。そして、やはり死んでいった友や仲間の死を背負い、闘いの意味と己の存在に疑問を感じながらも、やはり生きていけざるをえない水野竜一。それらの「けものたち」の死と生を、これからもただ見守り続けることになる「老いぼれ犬」高樹。
個人的には、この「挑戦」シリーズで最も印象強い作品が、本作「風群の荒野」だった。修羅場をくぐりぬけ、なお生き抜いて、高樹をも怖れさせる男になって再び現われた石本一幸。その石本をも倒す技量を持った水野竜一。
しかし、闘いに勝っても負けても、何かを背負って生きていかなければならない男たち。しかも彼らの「けものの血」が、一般の社会に、彼らが生きていく場所を与えない。
次回作では、人里離れた山奥にひっそりと生きている水野竜一が再び主人公。それを早く読みたくて、本屋を何軒も回って探したものだ。
【以下、関連作品】
北方謙三「風の聖衣」(挑戦③)
北方謙三「冬の狼」(挑戦②)
北方謙三「危険な夏」(挑戦①)


Comments