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February 22, 2008

北方謙三「ただ風が冷たい日」(約束の街⑦)

北方謙三「ただ風が冷たい日」は、「約束の街」シリーズの第7弾。前作の「されど君は微笑む」を読み終えて、「あー、これでブラディ・ドールと約束の街がつながった!」とホッとしたところで大型書店をのぞいてみると、なんと素晴らしいタイミングで、文庫版の続編の初版が発行されていた。奥付発行日は平成19年12月25日。まだ発行されて間もないではないか。これは即、買うしかないとレジ直行。
Tadakazegatsumetaihiyakusokunomachi


主人公(語り手)は、シリーズ第1弾の「遠く空は晴れても」と同じく、再び若月真一郎(ソルティ)に戻るのだが、ここにも、前作「されど君は微笑む」(約束の街⑥)に引き続き、「ブラディ・ドール」の面々が登場する。最初にこの街に姿を現すのは、「ブラディ・ドール」シリーズの⑨「聖域」で、高校を中退して暴力団に身を投じようとした若者、高岸だった。高岸は、この話の主人公(語り手)の高校教師・西尾に行方を探され、やがて西尾とともに敵とカーチェイスを繰り広げ、その結果、自分を探してくれた教師、西尾は命を落とす。

その後、川中のもとで、酒場「ブラディ・ドール」のボーイとして過ごしていた高岸が、この街に現われたのは、弁護士・宇野(キドニー)を尋ねてのことだった。

しかし、宇野は高岸と会おうとしない。姫島の久納義正老人から、宇野のガードを依頼された若月は、必然的にこのトラブルに巻き込まれていく。やがて宇野を探し回る高岸と、宇野をガードする若月は、浜辺で1対1で殴り合いと演じる。かろうじて高岸を殴り倒した若月だが、翌日の体力の回復は若い高岸にはかなわない。

そのうちに、宇野を探す高岸と、それを牽制する若月、波崎は、高岸を追う敵の存在にも気づき、トラブルの理由を探るために、高岸と組んで、3人で敵の車とカーチェイスを繰り広げる。

それが自分の唯一の財産というポルシェを駆る波崎と、作家・群秋生が持て余す車のなかからジープ・チェロキーを借りて乗る若月が高岸に協力するが、走りの見事さでは、死んだ恩師・西尾の乗っていたカローラ・レビンを身体の一部のように扱う高岸が敵を圧倒した。

群秋生も、川中のもとからきた高岸という若者に興味を持ち、自宅でのビリヤード勝負に誘い込む。その勝負にいかさまで勝った群秋生が、高岸からことの顛末を聞きだす。高岸がこの街に来たのは、恩師・西尾の異母妹が経営するバレンシア・ホテルの乗っ取りを阻止しようとして、弁護士・宇野に交渉するためだった。

しかし、この乗っ取り計画は、単にバレンシア・ホテルの乗っ取りにとどまらない根が深いもので、またしてもそこに久納一族の本家の兄弟である久納満と均との確執がからんでいた。姫島の久納老人のもとから、水村までもがやってきて、宇野や高岸の周辺で動いているもの、それが理由だった。

そうした状況に置かれたこの街に、再びあの男がやってきた。「ブラディ・ドール」の登場人物の中心である、川中良一である。ホテル・カルタヘーナの総支配人である忍信行や、姫島の久納義正、水村とも知り合いであるらしい川中が乗り込んできたことで、事態はさらに急を告げる。

おまけに川中は、いまでは若月とほぼ同年配になっている「ブラディ・ドール」のバーテン兼フロアマネージャー坂井(ブラディ・ドール②「碑銘」から登場)と、ピアニスト沢村(ブラディ・ドール⑤「黒銹」から登場)の二人を伴ってこの街にやって来ていた。哀愁のピアニスト沢村は、しばらくホテル・カルタヘーナのバーでピアノを弾くという。

ここからはエンディングに向かって、この街の乗っ取り計画と、それにからむ久納満と均の兄弟の争いをめぐっての抗争が急展開を見せ始める。沢村のピアノに涙を流す、暴力団・水無月会のナンバー2・崎田も、聞けばこの街の生まれだったという。群秋生と、バレンシア・ホテルのオーナー、中本佐知子の関係も明らかになる。

自ら窮地に乗り込んで情報を集めようとする波崎。やはり自らの身体を盾にして、己の守るべきものを守ろうとする、群秋生と沢村明敏。命を賭けた行動は、誰のためでもない。自分自身の誇りとこだわりのためだという。

「ブラディ・ドール」シリーズのいったんの終焉から数年を経て、さらに成熟した「ブラディ・ドール」の登場人物たちが、この「約束の街」の登場人物とともに、また男たちの闘いに踏み出していく。

やっぱりいいなあ、「約束の街」。そして「ブラディ・ドール」の男たち。年齢も職業も、この街で過ごしてきた年月も関係はない。あるのは目の前の闘いに、自分自身の誇りを賭けられるかどうか。その思いが、死を目の前にしても、男たちを激しく突き動かす。

シリーズの解説によると、この「約束の街」は、まだこれで終わりではないという。すると、この後も、「ブラディ・ドール」の登場人物と、この「約束の街」のキャレクターとが交錯して織り成すストーリーが読めるということか。だとすると、北方HBファンとしては、次の作品がますます楽しみにだ。


【以下、関連記事】
北方謙三「されど君は微笑む」(約束の街⑥)
北方謙三「いつか海に消え行く」(約束の街⑤)
北方謙三「死がやさしく笑っても」(約束の街④)
北方謙三「冬に光は満ちれど」(約束の街③)
北方謙三「たとえ朝が来ても」(約束の街②)
北方謙三「遠く空は晴れても」(約束の街①)
北方謙三「ふたたびの、荒野」(ブラディ・ドール⑩)
北方謙三「聖域」(ブラディ・ドール⑨)
北方謙三「鳥影」(ブラディ・ドール⑧)
北方謙三「残照」(ブラディ・ドール⑦)
北方謙三「黙約」(ブラディ・ドール⑥)
北方謙三「黒銹」(ブラディ・ドール⑤)
北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)

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