« 北方謙三監修「男たちの荒野」(ブラディ・ドール読本) | Main | 北方謙三「三国志」一の巻(天狼の星) »

February 10, 2008

北方謙三「死がやさしく笑っても」(約束の街④)

北方謙三「死がやさしく笑っても」は、「約束の街」シリーズの第4弾。主人公(語り手)は、ノンフィクション・ライターの田村幸太郎。田村は、南の島の土地買収のために使われた金の流れと、久納義正のことを調べにこの街にやってきた。
Shigayasashikuwarettemoyakusokunoma


文庫版カバーにはこうある。「虚飾と欲望に彩られた街。私はこの土地の権力者・久納義正を取材するためにやって来た。ジャーナリストは復讐のために始めた稼業だった。それがいつしか裏で記事を買い取らせるようになっていた。あの少年と出会うまでは。――少年の家族は瀬名島で利権争いに巻き込まれていた。私は彼と行動する事で、久納義正と少年の母に秘められた過去を知った。やがて激化する利権抗争。少年の母が危険に晒される。その時、老いた男の命を賭けた姿が、私の心に再び火をつけた! いま、滅びゆく者の人生が魂を激しく突き動かす。」と。

南の島(瀬名島)の空港建設にからむ土地買収の動きから、この街の久納一族の資金力や影響力をかぎつけた田村は、街での調査を開始する。その動きをさりげなく見張り、阻もうとする波崎と若月(ソルティ)。

動き始めた田村は、いまも相棒が引き続き調査を続ける瀬名島のホテルの経営者の息子・神谷俊一を街で見つける。俊一は島から家出をして、この街に実の父親がいることを確かめようとしにきたらしい。俊一の父、神谷弘二は新空港建設用地を買収した張本人だった。

俊一の行動からも、久納一族と土地買収の関係を確信した田村は、俊一と組んで、実の父親探しを手伝う動きに出る。その過程で、波崎や若月、作家の群秋生や、ホテル・カルタヘーナの総支配人・忍信行から、この街と久納一族のことを、少しづつ聞かされる田村。とくに作家の群秋生は、かつて田村が書いた人物ルポも読んでおり、その内容を評価していた。

久納一族の本家筋の兄弟である、弟の久納均と兄の久納満と会うことを希望する神谷俊一。当初は久納均のことを、自分の実の父親なのではないかと疑ってかかる俊一。自分の父の神谷弘二を裏で操り、空港の用地買収の糸を引いていたのは、この久納均だと知る。

しかし、田村と俊一の動きを知って、俊一を強引に探し出そうとしたのは、一族の長老であり、姫島に住む久納義正だった。姫島の意向で、水村も街で動き出す。

瀬名島の土地買収に関係するのは、島民や空港・建設関係者だけではなかった。どうやら政治家やそれにからむ組織も巻き込んでの抗争に進展しているという。

瀬名島をめぐる抗争のなかで、俊一の父親・神谷弘二が殺されたことを知って、久納義正が動き出す。ふだんはこの街の争いを姫島で静観している久納義正が動き出すことは、一族の血をひく忍にとっても、いままでに経験のなかったことだった。甥にあたる久納均に詰め寄り、土地の権利書を強引に買い取る義正。

そして久納義正の所有する船、ラ・メールで一直線で瀬名島に向かう、久納義正と俊一、田村、若月。水村は先に瀬名島に入っているという。狙いは、土地の権利書を自分が持つことで、瀬名島で小さなリゾートホテル「夕凪」を守る、俊一の母親、神谷可那子を守り、同時に空港用地をめぐる抗争を終わらすことだった。

それでも、権力や資金力に頼ることをせず、村と若月だけに助けを頼み、自らの身体を盾にして、それをやろうと決意している久納義正。神谷俊一もそれに同行するという。

この先、エンディングに向かうなかで、身体を張って敵を誘い出す久納義正と俊一、田村。闘いのなかで、義正と俊一の絆は強くなっていく。

やがて闘いを終え、怪我の癒えるのもまたずに、再びラ・メールに乗って、姫島に帰ろうとする久納義正に、「社長の人生の夕凪はここにあると思ってください」と神谷可那子は言う。「俺の夕凪はここにある。それだけは思っておこう」と答える義正。

「坊主、おまにに命を助けられた。それは忘れない。ありがとうよ。俊一」と言って、島を立ち去る義正。

この「約束の街」シリーズの冒頭の3作では、姫島から一族の争いを苦々しく見守っている頑固な老人として描かれてきた久納義正が、本作「死がやさしく笑っても」では、突如としてアクションを起こし、無謀なまでの決意で南の島までの航海を乗り切り、さらに島では少年と田村とともに、抗争のなかに飛び込んでいく。

シリーズを通して重要な存在としてあり続ける姫島の老人、久納義正が、素顔の人間味を見せる作品。俊一の父、神谷弘二は殺害されるが、主要な人物が死ぬことは今回はなかった。「約束の街」シリーズのなかでは、読後にほっとした温かみを感じることができる作品だ。

【以下、関連記事】
北方謙三「冬に光は満ちれど」(約束の街③)
北方謙三「たとえ朝が来ても」(約束の街②)
北方謙三「遠く空は晴れても」(約束の街①)
北方謙三「ふたたびの、荒野」(ブラディ・ドール⑩)
北方謙三「聖域」(ブラディ・ドール⑨)
北方謙三「鳥影」(ブラディ・ドール⑧)
北方謙三「残照」(ブラディ・ドール⑦)
北方謙三「黙約」(ブラディ・ドール⑥)
北方謙三「黒銹」(ブラディ・ドール⑤)
北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)

|

« 北方謙三監修「男たちの荒野」(ブラディ・ドール読本) | Main | 北方謙三「三国志」一の巻(天狼の星) »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/71092/40058110

Listed below are links to weblogs that reference 北方謙三「死がやさしく笑っても」(約束の街④):

« 北方謙三監修「男たちの荒野」(ブラディ・ドール読本) | Main | 北方謙三「三国志」一の巻(天狼の星) »