北方謙三監修「男たちの荒野」(ブラディ・ドール読本)
北方謙三監修「男たちの荒野(まち)」は、正確に言えば北方作品ではない。あくまで「監修」となっている。
しかし、巻頭の北方謙三氏へのロングインタビューをはじめ、この「ブラディ・ドール」という連作に関連する話題をはじめ、北方ハードボイルドに関わるさまざまなことが盛りだくさんに紹介されている本書は、やはり北方ファンには一度は目を通しておきたい本だろう。
文庫版カバーの紹介文にはこう書かれている。「“ブラディ・ドール”、癒されぬ傷を持った男たちの酒場。そこには幾多の闘い、死があった。死んでいった男たちに墓標はない。だが私の心に、彼らの猛き魂は永久に生き続ける。友よ、同じ荒野を生きたけものよ、私はおまえを忘れない。そして今こそ、おまえの碑銘を刻もう――。不朽のハード・ボイルドシリーズ“ブラディ・ドール”。己の掟に生き、心引き裂く闘いにあえて挑んだ者たちの物語が、今ここに集約される。著者が語るシリーズ誕生秘話から、荒野を駆けた男たちの軌跡、そして作中を彩った登場アイテムまで、すべてのエッセンスを分析し収録した熱き魂の聖典!」と。
角川文庫から平成13年9月25日に初版発行されている同書。あえてここで、その目次を紹介しておきたい。
●「男たちの荒野」(ブラディ・ドール読本)目次
Ⅰ 言葉 北方謙三ロングインタビュー
Ⅱ 歴史 北方謙三を囲む人々
Ⅲ 物語 死に逝く男たちが、街に記す足跡
Ⅳ 抜粋 彼らについての、いくつかの記憶
Ⅴ 愛着 北方謙三を構成するものたち
Ⅵ 世界 場面を彩る、さまざまなものたち
Ⅶ 愛車 車が語る物語
Ⅷ 趣味 ある作家の休日
Ⅸ 記録 事件、そして軌跡
Ⅹ 未来 「約束の街」創作ノートから
ⅩⅠ人々 プロフィール&メッセージ
どうだろう。文庫版ではあるが、本書の扉は、原稿用紙に北方謙三自筆だと思われる「荒野へ還れ」という文字で飾られている。そして次ページには氏の写真。続いて上の目次。北方ファンならば興味を持たすにはいられない。
だいたいが、冒頭の「北方謙三ロングインタビュー」からして、読み応え十分。文庫版ではあるが、43ページにわたるこのインタビューのなかの小見出しを見ると、どんな内容か想像がつくだろう。
●北方謙三は、荒野をゆく。
・デビューから『さらば、荒野』誕生まで
―いままでに一度もしゃべったことがない創作秘話?―
・“ブラディ・ドール”はいかにしてシリーズ化されたか
―『さらば、荒野』に書き残してしまったもの―
・“ブラディ・ドール”シリーズで表現したかったもの
―“ブラディ・ドール”はシリーズものではない?―
・キャラクターはどうやって生み出されたのか
―川中のモデルは石原裕次郎だった―
・“ブラディ・ドール”から「約束の街」シリーズへ
―二つのシリーズの関係は……?―
ええーっ! やはり「ブラディ・ドール」と「約束の街」って…、と思ってしまう私。最後にインタビュアーの小梛治宣(おなぎはるのぶ)氏はこう結んでいる。
「……ということで、水村と藤木の関係がどうだったのかということ(『されど君は微笑む』で水村は、自分のせいで藤木が最初の殺しをやったと語っている)も含めて、今後の展開を大いに期待したいと思います」。
って、やはり「ブラディ・ドール」の藤木と「約束の街」の水村って何だか存在感と立ち位置が似てると思ってたけど、二人は何か関係あったのかぁ? と思ってしまう意味深な文章だ。後に二人の関係を知ったときには「やっぱりな!」とひとりで悦にいっていたのは自分だけなのだろうか?
という具合に、北方作品をもう一歩深く楽しめるヒントが本書にはいっぱい! 北方氏の好む葉巻やクルマ、船と釣り、別荘などがについて、かなり突っ込んで紹介されている。
とくに、目次ではⅢの、物語「死に逝く男たちが、街に記す足跡」では、連作「ブラディ・ドール」シリーズの全10巻のあらすじが、簡潔な文章で紹介されている。シリーズのオーバービューにはもってこいの構成だ。
さらに、目次Ⅳの抜粋では、「ブラディ・ドール」の主だった登場人物が、川中良一〈さらば、荒野。ふたたびの、荒野、ほかシリーズ全編〉、宇野雄一郎(キドニー/シリーズ全編)、藤木年男(立花/①さらば、荒野~黙約)、坂井直司〈碑銘、ほか全編〉、秋山律〈肉迫、ほか全編〉、秋山菜摘、秋山安見、遠山一明〈秋霜、ほか全編〉、叶竜太郎〈黒銹、ほか⑤~⑦残照〉、沢村明敏〈⑤黒銹、ほか全編〉、桜内(ドク/⑥黙約、ほか全編)、山根知子、下村敬〈⑦残照~⑩ふたたびの、荒野〉、立野良明〈⑧鳥影〉、西尾正人〈⑨聖域〉、などが紹介され、その後に、「地図にかえて――男たちの荒野について」という章で、「ブラディ/ドール」の舞台となったN市の解説がある。
おまけに、上記の「ブラディ・ドール」の登場キャラの紹介の後には、「約束の街」の登場人物である若月真一郎の作中プロフィールまで紹介されている。もう、こうなると「ブラディ」ファンは、北方センセイの術中にすっかりハマってしまうこと間違いなし!
しかし、個人的に最も興味を惹いたのは、Ⅸ「記録 事件、そして軌跡」のなかに、かなり無理して作成したであろう“ブラディ・ドール”シリーズ年表があり、その後の、Ⅹ「未来 『約束の街』創作ノートから」には、この「約束の街」を俯瞰した手描きの地図が掲載されていたことだった。
これだけでも、「ブラディ・ドール」に続く連作「約束の街」シリーズを読むときに、何倍にも想像力を高めてくれるに違いない。
そして1冊のエンディングには、おそらく藤木の墓碑銘が彫ってあるのだろう、ジッポのオイルライターの写真がある。もー、たまらんですな!
それにしても、この「男たちの荒野」の文庫カバーの表紙の写真は、シンガポールスリングで有名なラッフルズ・ホテルのロングバーの写真なのではないかな? 誰か知っている方いたら教えてください。
【以下、関連記事】
北方謙三「冬に光は満ちれど」(約束の街③)
北方謙三「たとえ朝が来ても」(約束の街②)
北方謙三「遠く空は晴れても」(約束の街①)
北方謙三「ふたたびの、荒野」(ブラディ・ドール⑩)
北方謙三「聖域」(ブラディ・ドール⑨)
北方謙三「鳥影」(ブラディ・ドール⑧)
北方謙三「残照」(ブラディ・ドール⑦)
北方謙三「黙約」(ブラディ・ドール⑥)
北方謙三「黒銹」(ブラディ・ドール⑤)
北方謙三「秋霜」(ブラディ・ドール④)
北方謙三「肉迫」(ブラディ・ドール③)
北方謙三「碑銘」(ブラディ・ドール②)
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)続き
北方謙三「さらば、荒野」(ブラディ・ドール①)


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