北方謙三「水滸伝」全19巻

前回の読後感想&紹介文を書いてから、ずいぶん時間がたってしまったが、主な理由は、この北方謙三「水滸伝」にかなりはまってしまったことによる。一挙にというほどではないが、空き時間はほとんどこのシリーズにのめりこみ、7月までにかけて、ほとんど休まず全19巻を読み進めてしまった。
いやー、北方謙三先生には参りました。実はこれまで、日本語訳された「水滸伝」を通読したことがなかったのだが、この北方水滸伝には、2巻を読み始めた頃から、まさにぐいぐいと物語の世界に引きずり込まれた。また、その引き込まれ方が、ひとつの快感にもなってきた。
文庫版の解説などを読むと、この「北方水滸伝」は、これまで伝えられてきた水滸伝を、いったんすべて消化したうえでバラバラに解体し、それを新しい物語として再構築したようなものだという。それでは、この「北方水滸伝」をもって初めて水滸伝を通読した読者はいったいどうなるのだろう。これはもはや、北方水滸伝をもって本来の水滸伝と思わざるを得なくなるくらい、強烈な“刷り込み”が行われてしまったに違いない。
宋を倒して新しい国づくりをめざす志を持った男たちが梁山泊に集い、それぞれの意思と持ち場で闘いに挑んでいくさまを描いた、この水滸伝。大筋としては単純ではあるが、そこに出てくる一人ひとりの生き様と、闘いに挑んでは死んで行く、その死に様は、これはふさわしい表現ではないかもしれないが、非常に多彩で輝かしい。
たとえば最近の映画やドラマでは、たくさんの登場人物をからませることによって、物語の展開をふくらませていくという手法が流行っているようだが、そうした意味では、この「水滸伝」は、梁山泊に集う「108人の好漢」が織り成す人間模様のボリューム感で、現代の物語を圧倒する迫力がある。
そして、その漢たちのほとんどが、やがて闘いのなかで死んで行く。そして残された者たちは、死んでいった仲間たちを決して忘れることはない。
人間関係の希薄さや難しさが切実な問題となっている現代だから、よけいにこの物語の登場人物たちの生き方と、たとえ志なかばであっても、同志に志を託して散っていく漢たちの姿と友情に、憧憬に近いものを感じてしまうファンも多いに違いない。
文庫版19巻の通読後は、何か虚脱感に近い満足感があった。文句なく面白く、楽しめる作品だったと思う。



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